カテゴリー: ちょっと切ない話

胸が締め付けられるような、あの感覚。泣けるほど悲しいわけではないのに、なぜか心のどこかに引っかかって残る話があります。後悔、別れ、言えなかった言葉。切なさの中にこそ、人が生きる美しさがある——そんな短編をまとめました。

砂時計の三分間

教壇を下りて独りになった七十代の元教師の私に、孫の太一がくれた小さな砂時計の三分。音読が苦手で心臓の弱いあの子と、平成初期の縁側で一冊の本を読みあった日々。別れ…

黄楊の王将

三十年、引き出しの奥にしまい続けた黄楊の王将。親友との別れを恐れ、約束を捨てて故郷を離れた男が、危篤の報せに、幼馴染の彫った駒を手に三十年ぶりに帰郷する。盤の上…

機織りの伯母がくれた杼

昭和の織物の町で、無口な機織りの伯母に育てられた私。家業を継ぐのを拒み、ひどい言葉を投げつけた後、伯母は病に倒れた。和解できぬまま迎えた別れの間際、震える手で渡…

蛍さんがくれたお手玉

雪深い湯治場に冬だけ来ていた、足を患う蛍さん。退屈な谷の子供たちに、蛍さんはお手玉と歌を教えてくれた。四十年後、宿を畳む日に妹が届けた一冊の手帳が明かす、本当に…

麦笛が鳴ったら

弟との約束は、いつか私が迎えに行くこと。戦時中、出征する弟に一本の麦笛を持たせた姉。けれど遺された手帳に綴られた、たった一行で、私はようやく気づく。暗がりが怖い…

九官鳥のおかえり

九官鳥のおかえりという二言だけが、四十年たった今も耳の奥に残っている。北の山あいの谷へ単身赴任した若き日、凍える独りの夜を支えてくれた一羽の鳥に、私はある約束を…

鳴らさなかった風鈴

いつか島へ行こう——七海と交わした親友との約束を、私は仕事を口実に先延ばしにし続けた。彼女がいなくなった夏、鳴らさないまま仕舞っていた水色の風鈴を抱え、私は初め…

父の独楽

父の独楽を、私は四十年ものあいだ箱の奥に仕舞っていた。戦時中、時計の修理に追われ、幼い息子と遊んでやれなかった父。手すきになったらいっしょに回そう、という約束は…