半年前の俺へ

公開日: 兄弟姉妹 | 悲しい話

朝焼け(フリー写真)

半年前の俺へ。

そっちは午前4時だな。

部活で疲れてぐっすり眠っている頃だと思うが、頑張って起きろ。

今から言う事をやってくれ。頼む、お前のためだから。しくじるなよ。

音を立てないようにしろ。気付かれるから。

まず、一階に降りて台所から包丁を持って来い。

そしてお前のバカ兄貴の部屋の前に行き、ドアを開けて部屋に駆け込み一撃でぶった切れ。

バカ兄貴が首を吊ろうとしている、その柔道の帯で作った輪っかをな。

そうしないとバカ兄貴が首を吊って死んじまうぞ。

発見した時の光景と母さんの悲鳴は、多分一生、お前の頭から離れなくなる。

前日まで普通に相談に乗ってもらっていた兄貴が、次の日には死んでんだぞ。

居なくなるんだ。

あと兄貴に言ってやれ。

「散々アンタをバカにして来たが、学校じゃ自慢しまくるくらい好きなんだよ」

って…。

頼む。頼むよ。

頼むからこの文を半年前の俺へ送らせてくれよ。

頼むよ。お願いします。

「おやすみ。また明日な」

って言ってたじゃねえか。

バカ兄貴。

関連記事

パラオのサンセットビーチ(フリー写真)

パラオの友情

南洋のパラオ共和国には、小さな島が幾つもある。 そんな島にも、戦争中はご多分に漏れず日本軍が進駐していた。 その島に進駐していた海軍の陸戦隊は、学徒出身の隊長の元、住民たち…

マグカップ(フリー写真)

友人の棺

友人が亡くなった。 入院の話は聞いていたが、会えばいつも元気一杯だったので見舞いは控えていた。 棺に眠る友人を見ても、闘病で小さくなった亡骸に実感が湧かなかった。 …

青空(フリー写真)

命懸けの呼び掛け

宮城県南三陸町で、震災発生の際に住民へ避難を呼び掛け、多くの命を救った防災無線の音声が完全な形で残っていることが判りました。 亡くなられた町職員の遠藤未希さんの呼び掛けが全て収録…

終戦時の東京(フリー写真)

少女に伝えること

第二次大戦が終わり、私は多くの日本の兵士が帰国して来る復員の事務に就いていました。 ある暑い日の出来事でした。私は、毎日毎日訪ねて来る留守家族の人々に、貴方の息子さんは、ご主人は…

水族館

忘れられない君への手紙

あなたは本当に、俺を困らせたよね。 あの日、バスの中でいきなり大声で「付き合ってください!」って言った時から、もう、困ったもんだ。 みんなの視線が痛かったよ。 初デ…

浜辺

指輪の記憶

彼女が認知症を患った。 以前から物忘れがひどくなっていたが、ある日の夜中、突然「昼ご飯の準備をする」と言い出し、台所に立ち始めた。 そのうえ、「私はあなたの妹なの」と口に…

手紙(フリー写真)

生きて欲しかった

私は高校2年生です。 去年、3つ下の妹が自殺しました。 妹はいつも笑顔で『悩みなんてない!』みたいな子でした。 妹は成績は散々だったけど、コミュニケーションが苦手な…

ファミレス

兄妹の絆

ファミリーレストランでの仕事中、私の隣のテーブルに親子が座った。 お母さんは若作りした茶髪で、中学生くらいの息子と小学生の妹を連れていた。 初めはただの普通の家族だと思っ…

象(フリー写真)

三頭の象

上野の動物園は、桜の花盛りです。 風にぱっと散る花。お日様に光り輝いて咲く花。 お花見の人たちがどっと押し寄せ、動物園は砂埃を巻き上げるほどに混み合っていました。 象…

瓦礫

災害の中での希望と絶望

東日本大震災が発生した。 辺りは想像を絶する光景に変わっていた。鳥居のように積み重なった車、田んぼに浮かぶ漁船。一階部分は瓦礫で隙間なく埋め尽くされ、道路さえまともに走れない状…