涙の後には

公開日: 仕事

万年筆(フリー写真)

ある漫画家志望の若者の話です。

彼が17歳の時。

短編漫画が準入選に選ばれ、担当編集者が付いてくれることになり、気を良くした彼は九州から東京に上京して来ます。

当時は、すぐトップになれるぐらいの気持ちだったそうです。

しかし、甘くはなかった…。

作品のネーム(あらすじ)を提出しても全然通らない。

連載には至りませんでした。

描いても描いてもボツになる…。

「流石に自分の力の無さに気付いて、そうすると壁がどんどん高く見えてくる訳です。

一週間で19ページも面白い漫画を描き続けるなんて言うのは、人間にできる技じゃない。

漫画家になるべくして生まれた人にしかできないことなんだと思うようになって、ショックでしたよ」

描いても描いてもボツになる。

描いても描いてもボツになる。

描いても描いてもボツになる…。

彼は、ついには倒れて、一週間ほど体が動かなくなったそうです。

もう、漫画家になることを諦めようとした。

サラリーマンに今からなれるかなとも考えた…。

でも、その時、当時の担当編集者がこう言葉をかけてくれたのだとか。

「こんなに頑張って報われなかった奴を、俺は今まで見たことが無い。

必ず報われる日が来る」

喧嘩ばかりしていたその編集者が、ふと言ってくれた言葉に、彼は泣いた。

とことん泣いた…。

「また頑張れるぞ」

気力が湧いて来た。

『泣く』という文字は『涙』のさんずいに『立』ち上がると書きます。

涙の後に立ち上がり、彼が描き上げた作品が…。

そう、あの国民的漫画、

『ONE PIECE(ワンピース)』

なのです。

彼の名前は、尾田栄一郎さんです。

人生というシナリオには法則があります。

とことんまで頑張って、それでも結果は出ず、

「もうダメだ」

と力尽きるその瞬間に、あなたの人生を一変するシーン(名場面)と出会うようになっているのです。

まさに『ONE PIECE』の世界観そのものです。

人は、力尽きるところまで頑張った時、尽きることの無い無限の力が湧き上がるのです。

関連記事

ドクター(フリー写真)

思いやりのある若者

本当は書くべきじゃないのかも知れないが、久々に堪らない思いになった。 一応、医者の端くれとして働いている。 こういう生業だから、人の死に接する機会は少なくない。 少し…

カラオケのマイク(フリー写真)

お金以上のもの

パパ、ママ、小学生の三姉妹の仲良し五人家族。 ある日、ママが交通事故で亡くなってしまいました。 慣れない家事にお父さんも奮闘。 タマゴ焼きを焦がしたり、洗濯物を皺だら…

オフィスの写真

もう一度、あの笑顔に会いたくて

私の前の上司、課長は無口で無表情な人でした。 雑談には加わらず、お酒も飲まない。人付き合いを避ける、どこまでも堅物な方でした。 そのぶん、誠実で公平。どんな場面でも冷静に…

繁華街

夢への橋渡し

私はかつて、家の貧しい状況から夜の仕事をしながら大学に通うキャバクラ嬢でした。 私の初めてのお客様は、Yさんという70歳のお爺ちゃん。彼は口下手で、私の話に対して「うん。そうだ…

教室

先生の目に浮かぶ涙

私がその先生に出会ったのは、中学一年生の時。 明るくて元気いっぱいの先生だったけれど、怒るときはすごい勢いで怒る。 そんなパワフルな先生が、私はとても好きだった。 …

病室(フリー背景素材)

またどこかで会おうね

俺は以前、病院勤務をしていた。と言っても看護婦や医者などの有資格者じゃないんだけどね。 それでさ、掃除しようと思ってある病室に入ったんだよ。 よく知らずに入ったらさ、どうや…

教室

厳しさの中の優しさ

十五年以上前の話です。当時、小学6年生だった私のクラスに、A君という友達がいました。彼は父親がおらず、生活も苦しそうで、いつも古びた服を着て、新しい上履きも買えずにいました。給食費や…

ビル

隣の席の喪失と救い

ある日、私の隣に座っていた会社の同僚が亡くなりました。彼は金曜日の晩に飲んだ後、電車で気分が悪くなり、駅のベンチに座ったまま息を引き取ったのです。55歳という若さでした。 私た…

ビジネス街

意外な誕生日のサプライズ

俺は入社してから、ひたすら数字を追い続けてきた。 毎日必死に働き、7年が経ち、会社からも業績を認められるようになった。 何度か昇格を経て、いくつかの部下を持つようになり、…

飛行機の座席(フリー写真)

ファーストクラス

「ちょっとスチュワーデスさん!席を変えてちょうだい」 ヨハネスブルグ発の混んだ飛行機の中で、白人中年女性の乗客が叫んだ。 「何かありましたか?」 「あなた、解らないの…