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母がボタンを付ける理由

母が倒れて、私は商店街の小さなクリーニング店に立った。カウンターの隅の青い缶には、色も形もばらばらのボタンが何百個。常連客の一言で、私はその缶の正体を知る。見送…

母の代筆 二十九通

介護福祉士の主任として、よその家のお母ちゃんばかり何百人と看取ってきた私が、亡き母の鏡台で見つけた桐の文箱と二十九通の便箋。それはすべて、面会に来られない娘を庇…

片道三時間の嘘

三年間帰らなかった実家。電話口の「大丈夫」を信じたふりをしていた俺と、膝の痛みを隠していた母。軒先の干し花が教えてくれた、不器用な親子の本当の距離の話。…

母が誰かに預けていた一杯

墨田の路地を配達して七年、実家のある二丁目だけを避けて走ってきました。三丁目の田中さんが毎回出してくれる縁の欠けた薄緑の湯呑みと、押し入れの奥から出てきた一枚の…

ガイドブックの赤鉛筆の線

東京に来ないかと誘うたび、母は人ごみが苦手やからと断った。その母の鏡台の引き出しから出てきた十二年前のガイドブックには、浅草にも焼肉屋にも赤鉛筆の線が引いてあり…

母が折ったページの角

体育のあとの教室で、机の上に切り裂かれた文庫本が置かれていました。いじめのことを、私は母に言えませんでした。友達のいない私に、母が月に一冊だけ本を買ってくれる人…