弟は毎月姉の髪の長さを持ってくる
毎月第一日曜の朝、制服姿の男の子は一枚の写真を持って、姉の髪の長さに頭を整えにやって来た。手鏡を受け取らない彼の理由を、美容師の私は十一か月、何も知らないままハ…
毎月第一日曜の朝、制服姿の男の子は一枚の写真を持って、姉の髪の長さに頭を整えにやって来た。手鏡を受け取らない彼の理由を、美容師の私は十一か月、何も知らないままハ…
引越し作業員の僕は、九月の団地の四階で、一つだけ軽い段ボール箱を見つけた。側面には「最後に開ける箱」の文字。依頼人のふみさんは、来週入る家族の前で開けてほしいと…
毎月第一木曜、駅の窓口へ白いテープの傘を探しに来る男がいた。届出書の文字は二十五年、一字も変わらない。保管庫の青い傘立ての奥で見つけたものと、前任者の引き継ぎノ…
駅前のコインランドリーで、父は七番の壊れた乾燥機だけを直さなかった。夜ごと百円玉が戻ってくる音の裏には、月末の菓子缶と、色の褪せた貼り紙と、私が長いあいだ見落と…
「一枚だけで、いいんです」。駅前の写真店に、毎月台所の写真を焼きに来る女性がいた。一枚だけの写真で、窓ガラスの端を暗くしてほしいという頼み。その本当の意味を、私…
盲導犬になる仔犬を預かった一年間、ミントは靴を履く私の左足の甲に顎をのせた。直すよう言われても直らず、手放す日まで謝り続けた。ほんの少しの重みが誰かの歩く道を守…
病院の売店で、毎週いちご牛乳とストロー二本を頼む八歳の男の子。曲がったストローを作る小さな手を見て、私は彼の母親を疑っていた。その理由を知ったのは、雨で品切れに…
三月十一日の昼、窓口に来た老人は「夕方のチャイムを、最後まで鳴らしてくれ」とだけ言った。毎日四十八秒で止まるはずの音と、操作盤の付箋に残された「ボタンは離すな」…
検針票の裏に、志津子さんは毎月、鉛筆で返事をくれた。使用量が倍になった冬、二月の雨の午後に見たのは、満杯のまま抜かれていく湯と、指二本ぶんだけ開いた浴室の小窓だ…
冷凍庫の容器には、入院した妻の丸い字で日付が書かれていた。十一月三日から一日に一つ、私は言われたとおり日付の順に食べた。十二月一日の朝、病室の白板に書かれた二文…
梅雨の晴れ間、祖母の家の納戸で、僕の名前が貼られた瓶が九本見つかった。祖母の梅干しは年ごとに塩の数字が減っていて、ノートには、僕が電話で言った一言への返事が、十…
毎月第一土曜の十一時、時枝さんは左手の薬指だけを塗らずに帰っていく。サンプルのゼロ番が一枚ずつ減る理由を、ネイリストの私は一年七か月、取り違えていた。二名分で取…
水曜の午前三時十分、作業着の男は窓際の端の席に鮭のおにぎりをひとつ置いた。供え物だと思い込んだ僕は、三か月のあいだ、それを朝の廃棄袋へ入れ続けた。その席が誰のた…
駅の改札の猫は、降りてくる人の顔を見ない。見るのは足元だけだった。毎週木曜の夜、猫が立ち上がる足音の主を、窓口の小窓から足元しか見えない俺は三か月、知らなかった…
毎月、第二土曜に預かる紺のスーツの左ポケットには、映画の半券が一枚だけ入っていた。隣の八番はいつも空席だと思い込んでいた私は、秋の土曜、ポケットの半券が初めて二…