ポケットの半券は片方だけ残される
毎月、第二土曜に預かる紺のスーツの左ポケットには、映画の半券が一枚だけ入っていた。隣の八番はいつも空席だと思い込んでいた私は、秋の土曜、ポケットの半券が初めて二…
毎月、第二土曜に預かる紺のスーツの左ポケットには、映画の半券が一枚だけ入っていた。隣の八番はいつも空席だと思い込んでいた私は、秋の土曜、ポケットの半券が初めて二…
覆いが外された北口の大時計の下で、私は五年前の冬、二時間待った。来なかった恋人が送った「分かった」の三文字は、別の時計の下から届いていた。展示パネルの小さな注記…
高校の2年間、毎朝7時20分に橋の手前で一緒になる同級生がいた。吉岡はいつも川の側を走り、帰りは一度も一緒にならなかった。14年後、市役所の窓口に来た1枚の転出…
深煎りの匂いは、坂の途中の焙煎所から二階の窓まで上がる。娘が学校へ行かなくなって一年、俺はその匂いを焼くのをやめた。きらい、とあの子が言うたからだ。北風の強い夜…
店の奥、水道の脇の白いバケツには、売り物にならないはね出しの花が挿してある。毎月14日、そこから一輪だけが消える。電話をかけてくるのは毎回ちがう人で、みんな22…
返信が途絶えた一時間後に届いた、最後の一言。病室で綴られた日記、渡しそこねた指輪、ごみ箱から見つかった手紙。恋愛の泣ける話を三十二本、言えなかった言葉・遺された…
教壇を下りて独りになった七十代の元教師の私に、孫の太一がくれた小さな砂時計の三分。音読が苦手で心臓の弱いあの子と、平成初期の縁側で一冊の本を読みあった日々。別れ…
戦時中、町役場に勤める祖父は毎晩ひと粒の大豆を空の袋へ移していた。これは祖父の思い出をたどる泣ける短編小説です。孫と過ごした一日を宝として数え続けた祖父が、ある…
七年前に喧嘩別れした幼馴染が先月他界した。遺品として届いた二十四年前の使い切りカメラを現像すると、最後の五枚に、病床の自撮りと、冬の海と、私への謝罪のメッセージ…
陶芸家の俺は10年前の元恋人を忘れられず、もらった花束を干し花にしてずっと工房に置いていた。ある秋、その彼女が客として現れ——切なくも温かい再会の物語。…
東京で和菓子職人を営む誠は、母の家の整理中に古いアルミのお弁当箱を見つけた。錆びた蓋の裏には、六年分の日付と一言が並んでいた——口下手な母が語らなかった愛の形。…
十年前に告白できなかった初恋の人と、出張先の城下町で再会した。祖父のリハビリに付き添う彼女が手にしていたのは、蔵から出してきた古い番傘だった。泣ける恋愛の感動短…
図書館司書の桜は、亡くなった元彼の部屋で古いカセットテープを見つけた。「桜へ」と書かれたテープは10本。毎年誕生日の前夜に録音された、届かなかった声だった。…
3年ぶりに帰省した孫が、祖母の指に50年間輝き続ける銀の指輪を見つけた。祖父が5年かけて贈った指輪に込められた無口な愛情と、老いていく祖母の姿に、失われた時間の…
毎年十二月に届いていた弟からの手編みマフラー。今年は届かなかった。看護師の姉が遺品整理で見つけた手紙に、弟が三年間黙っていた理由が綴られていた——切なくも温かい…