苦渋の決断

公開日: ペット | 悲しい話 |

老犬(フリー写真)

22歳になるオスの老犬が来ました。

彼は殆ど寝たきりで、飼い主が寝返りを打たせているので、床ずれが幾つも出来ていました。

意識はしっかりしているのですが、ご飯も飼い主が食べさせている状態でした。

獣医師の診断では、

「体は動かなくなっているけれど、心臓が丈夫なので暫くは生きられます。けれど、本当に、ただ『生きる』だけです」

そのようなことを言っていたと思います。

その後はどのような遣り取りがあったのかはよく分かりませんでしたが、恐らく安楽死を検討されたのでしょう。

飼い主さんはかなり悩んでいたようです。

一日経った日の終業後、飼い主さんは老犬を連れてやって来ました。

心電図を繋ぎ、静脈に薬剤を注入し、静かに老犬は永遠の眠りに就きました。

その日、外は小雨が降っていました。

飼い主さんは獣医師に、

「タクシーをお呼びしましょうか」

と言われたのを静かに断り、22年間一緒に暮らした家族の亡骸をバスタオルに包み、小雨の中を歩いて帰って行きました。

関連記事

柴犬

ナオと歩いた家族の時間

昔、我が家では一匹の犬を飼っていた。 名前はナオ。 ナオは、ご近所の家で生まれた子犬だった。 その子犬を、うちの妹が、誰にも相談せずに勝手に連れて帰ってきたのが始ま…

月(フリー写真)

月に願いを

俺は今までに三度神頼みをしたことがあった。 一度目は俺が七歳で両親が離婚し、父方の祖父母に預けられていた時。 祖父母はとても厳しく、おまけに 「お前なんて生まれて来な…

青空(フリー写真)

彼女に会いに行きたい

俺も元カノを亡くしたよ。もう何年も前だけど。 中学の頃に親父が死んでも大して泣かなかったが、これはボロ泣きした。 彼女とは3年ちょい付き合って、俺の我侭で上手く行かなくなり…

猫(フリー写真)

息子が教えてくれた

ある日、子供が外に遊びに行こうと玄関の戸を開けた。 その途端、まるで見計らっていたかのように、猫は外に飛び出して行ってしまいました。 そして探して見つけ出した時には、あの子…

タクシーの車内(フリー写真)

覚えていてくれたんですね

仕事帰りに乗ったタクシーの運転手さんから聞いた話です。 ※ ある夜、駅のロータリーでいつものように客待ちをしていると、血相を変えたサラリーマン風の男性が 「○○病院…

ドクター(フリー写真)

思いやりのある若者

本当は書くべきじゃないのかも知れないが、久々に堪らない思いになった。 一応、医者の端くれとして働いている。 こういう生業だから、人の死に接する機会は少なくない。 少し…

学校(フリー背景素材)

たくちゃん

その人は一個上の先輩で、同級生や後輩からも『たくちゃん』と呼ばれていた。 初めて話したのは小学校の運動会の時。 俺の小学校は、全学年ごちゃ混ぜで行われる。俺は青組みだった。…

子猫(フリー写真)

こはくちゃん

彼女を拾ったのは、雪がちらほらと舞う寒い2月の夜。 友人数人と飲みに行った居酒屋でトイレに行った帰り、厨房が騒がしかったので『何だ?』と思ったら、小さな子猫を掴んだバイトが出て来…

お弁当グッズ(フリー写真)

海老の入ったお弁当

私の母は昔から体が弱かった。 それが理由かは分からないが、母の作る弁当はお世辞にも華やかとは言えない、質素で見映えの悪いものばかりだった。 友達に見られるのが恥ずかしくて、…

女の子の後ろ姿

再生の誓い

私が結婚したのは、20歳の若さでした。新妻は僕より一つ年上で、21歳。学生同士の、あふれる希望を抱えた結婚でした。 私たちは、質素ながらも幸せに満ちた日々を過ごしていましたが、…