苦渋の決断
22歳になるオスの老犬が来ました。
彼は殆ど寝たきりで、飼い主が寝返りを打たせているので、床ずれが幾つも出来ていました。
意識はしっかりしているのですが、ご飯も飼い主が食べさせている状態でした。
獣医師の診断では、
「体は動かなくなっているけれど、心臓が丈夫なので暫くは生きられます。けれど、本当に、ただ『生きる』だけです」
そのようなことを言っていたと思います。
その後はどのような遣り取りがあったのかはよく分かりませんでしたが、恐らく安楽死を検討されたのでしょう。
飼い主さんはかなり悩んでいたようです。
※
一日経った日の終業後、飼い主さんは老犬を連れてやって来ました。
心電図を繋ぎ、静脈に薬剤を注入し、静かに老犬は永遠の眠りに就きました。
その日、外は小雨が降っていました。
飼い主さんは獣医師に、
「タクシーをお呼びしましょうか」
と言われたのを静かに断り、22年間一緒に暮らした家族の亡骸をバスタオルに包み、小雨の中を歩いて帰って行きました。