脳内フィアンセ
もう十年も前の話。
俺が京都の大学生だった頃、男二人、女二人の四人組でいつも一緒に遊んでいた。
そんな俺たちが四回生になり、めでたく全員就職先も決まった。
「もうこうしてみんなで遊べるのも残り僅かだなー」
と四回生の後期は話していたなあ。
※
そして卒業が近付いて来た二月頃、急に四人の内の二人が「結婚する」と言い出した。
俺を含む残り二人は、びっくりしつつも心から祝福したよ。それに凄く羨ましかった。
残された二人で、
「何か羨まし過ぎるから、俺たちも結婚しようか?」
なんて言っていたら、
「じゃあ、お互い30歳になってもまだ独身だったら結婚しよう」
という話になった。
ありがちな話で恥ずかしいんだけどね。
※
そんなこんなで俺たちが25歳になった頃。
暫く振りに仮フィアンセ(笑)に会った。
「あと5年で結婚するハメになっちゃうよ。結婚の予定ないのかよ」と聞いたら、
「全くナシ」だって。
お互い笑いつつも、俺は少しホッとしていた。
この時『あ、俺本気でこの娘に惚れてるのか!』と気が付いた。
※
その一ヵ月後くらいかな。脳内フィアンセが交通事故に遭ったのは。
即死だった。もうだめ。半狂乱みたくなっちゃって。仕事も長期休暇になった。
何もする気にならなくて、完全に引き篭もり化してしまった。
そんな俺を助けてくれたのは、例の夫婦だった。
他県に住んでいるのに毎週、俺の様子を見に来てくれて。
偶には仕事休んでまで来てくれて。
「うっとーしい!もう来ないでくれ!」
なんて言ってしまっても懲りずに来てくれて。
無理矢理、一緒に酒を飲みに連れ出してくれて。
俺が何とか仕事に復帰した時なんか、号泣してくれちゃって。
考えたらあいつらだって俺と同じくらい悲しかったはずなのに。
今は毎晩思うよ。ありがとなって。本当にありがとなって。
お前らに見捨てられてたら俺、狂い過ぎて自殺していたかもしれない。
救ってくれてありがとな。
※
そんで、脳内フィアンセよ。
もうとっくに30歳は過ぎちゃったけど、俺結婚することになったよ。
だから約束は守れない。
まあ半分以上、冗談みたいな約束だったけどな(笑)。
見ていてくれよ。あいつらに負けないくらい仲の良い夫婦になってやるからさ。