愛の記憶

公開日: 夫婦 | 心温まる話

夫婦

嫁がお風呂に入っている間に、つい彼女の携帯を見てしまった。

メールボックスには、私が送った些細な内容のメールばかりが溢れていた。

しかし、あるフォルダを開くと、そこには知らない男からの、嫁宛の甘い内容のメールが溜まっていた。100通は超えているだろう。

感情が昂ぶり、嫁がお風呂から上がるなり、そのメールについて問い詰めた。

すると嫁は笑顔で、

「自分が送ったメールを忘れてしまったの?」

と返した。私はその瞬間、何も言えなくなった。

よく見ると、差出人は私の昔の番号だったのだ。

その場で嫁の携帯の電池がほぼなくなっていることに気づいた。彼女は何年も前から同じ携帯を使い続けていた。

「なぜ機種変更しないの?」と聞くと、嫁は淡々と、

「メールが消えるのが嫌だったから」

と答えた。

そんな嫁の想いに、私は携帯を盗み見たことを深く後悔し、謝罪した。

嫁は笑いながら、

「こんな私を愛してくれる人は、あなた以外にいない」

と言い、私を強く抱きしめた。

この週末、私は嫁の携帯を機種変更しに行く。もちろん、私の費用で。

彼女が大切にしていた過去の言葉たちを失わずに、新しい日々を築いていくために。

関連記事

空の太陽(フリー写真)

祖父が立てた誓い

三年前に死んだ祖父は、末期癌になっても一切治療を拒み、医者や看護婦が顔を歪めるほどの苦痛に耐えながら死んだ。 体中に癌が転移し、せめて痛みを和らげる治療(非延命)をと、息子(父)…

瓦礫

再建の約束

太陽の光がほんのりと残骸の上を照らしていた。災害により変わり果てた風景の中、一つの臨時の避難所が静かな緊張感を持っていた。 「若者の代表として、一つだけ言いたいことがあります……

放課後の教室

恩師の愛情

私は高校2年生の時にうつ病になった。 切っ掛けは、2年半付き合った彼氏に振られたことと、友達から仲間はずれにされるようになったことだと思う。 毎日、泣いていた。 プ…

終電の車内(フリー写真)

親切の輪

終電の発車間際に切符なしで飛び乗り、車掌さんが回って来た時に切符を買おうと財布を出そうとしたが、財布がなかった。小銭入れもない。 どこかで落としたのだろうか。 途方に暮れた…

桜吹雪(フリー写真)

母さんのふり

結構前、家の固定電話に電話がかかってきた。 『固定電話にかけてくるなんて、誰かなぁ』 と思いながらも、電話に出てみた。 そしたら、 「もしもし? 俺だけど母さん…

母の絵(フリー写真)

欲しかったファミコン

俺の家は母子家庭で貧乏だったから、ファミコンが買えなかった。 ファミコンを持っている同級生が凄く羨ましかったのを憶えている。 小学校でクラスの給食費が無くなった時など、 …

手編みのマフラー(フリー写真)

オカンがしてくれたこと

俺の家は貧乏だった。 運動会の日も授業参観の日さえも、オカンは働きに行っていた。 そんな家だった。 ※ そんな俺の15歳の誕生日。 オカンが顔に微笑みを浮かべて、…

花嫁

父のノート

大学生の時、友人Aちゃんと彼氏B君は同棲を始めました。二人は若く、両親からは「結婚はまだまだ先のこと。責任ある交際を」と言われていました。 大学3年のとき、Aちゃんの家族にのみ…

母の手(フリー写真)

お母さんが居ないということ

先日、二十歳になった日の出来事です。 「一日でいいからうちに帰って来い」 東京に住む父にそう言われ、私は『就職活動中なのに…』と思いながら、しぶしぶ帰りました。 実…

犬(フリー写真)

大切な家族

家で可愛がっていた犬が亡くなって、もう何年経っただろう…。 まだ私も子育て中で、小さい子供を2人育てていたので毎日がバタバタだった時のことだ。 旦那が、番犬になるし子供たち…