厳しい母
私の母はとても厳しい。
身の回りの事は全て自分でやらされていた。
勉強も部活も一番じゃないと気が済まない。
定期テストで二番を取ると、
「二番は敗者の一番だ」
と凄く怒られた。
いつだって母は他の誰かと比べた。
私よりも上の人。
どれだけ良い点数を取っても、母は笑顔を見せてはくれなかった。
一番、一番、一番、一番…。
プレッシャーで円形脱毛症になり、声も出なくなりかけた。
しかし私はその他にも、大きな問題を抱えていた。虐めだ。
学級長などに選ばれていた私は、前で話す事が多かった。
多感な時期の中学生は、出る杭は打ちたくなるものだ。
毎日が地獄だった。
※
そんなある日、帰ろうとして教科書をリュックに詰めようとすると、机の中に教科書が一冊も無かった。
血の気が引いた。
探し回ると、洗面所の蛇口から水が勢い良く飛び出ていて、その下に私の教科書があった。
お母さんに怒られる。
それしか思わなかった。
それでも帰るしかなかった。
家に着いて欲しくない、本気でそう思った。
しかし、家に着いてしまった。
案の定、母の車は家にあった。
ずぶ濡れになって、ところどころ破けている教科書を母の前に出し、私は土下座した。
ごめんなさい、ごめんなさい、と訴えた。
頭は真っ白だった。
母が私の前に座った気配がした。
殴られる。そう思った瞬間、母が私を抱き締めた。
ぐっぐっと、母の嗚咽が聞こえた。
「ごめんね、ごめんね。気付いてあげられなくてごめんね」
と母が泣きながら私に謝ってきた。
毎日死にたいと思っていた。
生きる意味が分からなかった。
何で頑張っているのかも分からなかった。
でも、私は悲しくて悔しかったんだなあと思った。
私も涙が止まらなくなった。
久しぶりに母の腕で泣いた。
※
それから私は学校に行かなくなった。
世間体ばかり気にする母が、仕事を休職してまで私と居てくれた。
今、私は県内で一番の進学校に居る。
恩返しをしたい。
良い会社に入って、母を楽にしてあげたい。
目標がある勉強はとても楽しい。
あの時、抱き締めてくれた母の匂い、力強さ、私は一生忘れない。