前彼の祝福

公開日: 心温まる話 | 恋愛

結婚式(フリー写真)

学生時代、彼氏を事故で亡くした。

引き摺りまくって、もう新しい彼氏も結婚も要らないと荒み、誘いも蹴り告白も断った。

お一人様の老後を設計していたのだけど、ある日いきなりご縁が降って湧いた。

今までそんな気になれなかったのに、ふと付き合ってみる気になって(これがそもそも不思議。色々と大変な時期でそれどころじゃなかったのに)、付き合い始めてみるとあれよあれよと結婚まで進んで行った。

そして結婚式当日。天気予報は雨だったのに何故か見事に晴れ。

式は恙無く進み、招待客のお見送りの時間になった。

先頭に立って来たのは十年来の親友(女性)。

「今日はありがとう」

と声を掛けようとしたのだけど、その前に

「おめでとう、幸せに」

と私、主人と握手。一礼して退場。

仕草と言い、言い方と言い、紛れもなく前彼のものだった。

一瞬驚いたけど、

『ああ、前彼だな。来てくれたんだ…』

と、何となく納得してしまった。

二次会の時、親友にそれとなく式の間のことを聞いてみると、何故か彼女、平謝り。

「乾杯のシャンパンしか口にしてないのに緊張してたからか酔ったみたい。

式がお開きになる前後くらいから記憶がない。

気が付いたら近所のカフェに座っていた。泥酔して迷惑掛けたよね」

とのこと。いえ、あなた普通に素面だったし普段うわばみですよね…。

近くに居た友人二人曰く、

「酔ってた様子には見えなかった。そういう酔い方もあるんだね。

気分も悪くなさそう。と言うか『ああいい気分だ!』と言ってたよ」

もちろん親友はその記憶もなし。

ちなみに、式から二次会までそんな時間も空いていないのに、泥酔したはずの親友に酒が残っている気配は一切なし…。

『ああ、前彼が祝福に来てくれたんだな。心配かけていたのね…』

としんみりしてしまった。

そのうち子どもでもできたら、墓前に参って

「ありがとう。幸せだよ。でも親友には謝ろうね」

と言っておこうかなと思っています。

関連記事

浜辺で手を繋ぐカップル(フリー写真)

彼女の面影

彼女が痴呆になりました。 以前から物忘れが激しかったが、ある日の夜中に突然、昼ご飯と言って料理を始めた。 更に、私は貴方の妹なのと言ったりするので、これは変だと思い病院へ行…

空(フリー写真)

才能の代わりに

小学生の時、少し知恵遅れのA君が居た。 足し算、引き算などの計算や、会話のテンポが少し遅い。でも、絵がとても上手な子だった。 彼はよく空の絵を描いた。抜けるような色合いには…

恋人(フリー写真)

一番大切な人

当時21歳の私と倫子は、その日ちょっとしたことで喧嘩をしてしまった。 明らかに私が悪い理由で。 普段なら隣同士で寝るのに、この日は一つの部屋で少し離れて寝た。 ※ 19…

親子(フリー写真)

知ってるよ

「結婚したい子が出来た」 とオヤジに言ったら、数日後に 「大事な話がある」 と言われ、家族会議になった。 今までに無い、真剣な顔で…。 父「実は、俺と…俺…

夕日

再会の約束

私の心に刻まれた恋の物語をお話しします。 大学生の日々、初めて彼氏ができました。 私たちは同じキャンパス、同じサークルで出会った運命の人でした。 お互いに気持ちを深…

手を繋いで歩く夫婦(フリー写真)

たった一つの記憶

私の夫は、結婚する前に脳の病気で倒れてしまい、死の淵を彷徨いました。 私がそれを知ったのは、倒れてから5日も経ってからでした。 夫の家族が病院に駆け付け、携帯電話を見て私の…

数式(フリー素材)

天才数学者の意志

人は彼のことを「神童」とも「天才」とも「未来を嘱望された若手数学者」とも形容する。 ただ一貫しているのは、彼の頭脳力と、それに劣らない人格に対する尊敬と敬愛だろう。 20…

チューリップ(フリー写真)

立派なお義母さん

結婚当初は姑と上手く噛み合わず、会うと気疲れしていた。 意地悪されたりはしなかったけど、気さくでよく大声で笑う実母に比べ、足を悪くするまでずっと看護士として働いていた姑は喜怒哀楽…

飲食店の席(フリー写真)

ファミレスの父娘

ファミレスで一人ご飯を食べていたら、前のテーブルからおっさんと女子高生の会話が聞こえて来た。 おっさんはスーツ姿で普通の中年。痩せていて、東幹久さんに似た雰囲気。会話の流れから父…

瓦礫

災害の中での希望と絶望

東日本大震災が発生した。 辺りは想像を絶する光景に変わっていた。鳥居のように積み重なった車、田んぼに浮かぶ漁船。一階部分は瓦礫で隙間なく埋め尽くされ、道路さえまともに走れない状…