気付かないふり

公開日: 心温まる話 | 恋愛

カップル(フリー写真)

一昨年の今日、告白しました。生まれて初めての告白でした。

彼女は全盲でした。

それを知ったのは、彼女が弾くピアノに感動した後の事でした。

俺は凄くびっくりしました。そして同時に、めちゃくちゃ悲しくもなりました。

助けてあげたい、何でも良いから、俺は彼女の力になりたかったのです。

今にして思えば、それは俺のエゴだったんですけどね。

彼女は、自分が全盲である事をあまり意識されたくないようでした。

俺が出来る事は、彼女のピアノを聴いてあげる事と、日頃の悩みや、その日にあった出来事を聞いてあげる事でした。

そんな事をしている内に、俺は彼女の優しさや強さに惹かれて行きました。

そしてイブの夜、クリスマスパーティーの帰り。

彼女が車を待つ間に思い切って告白しました。

「大好きだ」ってね。

そしたら彼女が、もう少し近付いて欲しいと言うんです。

俺は言われるまま近付きました。そしたら…。

彼女は優しく俺の顔に両手で触れたと思ったら、そのまま唇を合わせたんです。

全盲の子ですよ? 俺は嬉しさと驚きと、とにかく色々な感情が湧き起こって来て、泣きました。

いつも彼女に「泣くのは格好悪い」と言っていたのに。

泣いているのは間違いなく声でバレているのに、彼女は気付かないふりをしてくれました。

その後、彼女は色々な経緯を経て手術をする事になり、暫く離れ離れになりました。

その間、俺はめちゃくちゃ不安で潰れそうでした。

ただひたすら、手術の成功を祈り続ける毎日。

失敗したらどうなるかは教えてもらえなかったし、怖くて調べなかった。

そんな勇気はさっぱり無かったんです。

そして、祈りが通じたのかな。手術は成功して、彼女の目に光が戻りました。

その後、初めて俺と会った時、彼女は俺の事をこれでもかというほど抱き締めてくれました。

手術が不安な時、俺に励まされた事を思い出していたと言ってくれました。俺はこの時も泣いてしまいました。

「もう気付かないふりできないからね」

俺はそのセリフに感動して、彼女の事を負けないくらい抱き締めて、それでその時に初めて俺の方から彼女にキスしました。

今でも彼女とは仲良くやっています。

関連記事

モデルルーム

展示場での再会

その日、私たち家族は新築の夢を叶えるべく、住宅展示場を訪れていました。両親と妹、そして私。私だけが初めての参加で、新しい家に対する期待で胸が躍っていました。 展示場の家々はどれ…

女性の後姿(フリー写真)

宝物ボックス

俺が中学2年生の時だった。 幼馴染で結構前から恋心も抱いていた、Kという女子が居た。 でもKは、俺の数倍格好良い男子と付き合っていた。俺が敵う相手ではなかった。 彼女…

手紙を書く手(フリー写真)

寂しい音

ある書道の時間のことです。 教壇から見ていると、筆の持ち方がおかしい女子生徒が居ました。 傍に寄って「その持ち方は違うよ」と言おうとした私は、咄嗟にその言葉を呑み込みまし…

差し伸べる手(フリー写真)

俺を育ててくれた兄貴

俺を育ててくれた兄貴が正月に結婚したんだ。 兄貴と言っても、血は繋がっていないけれど。 ※ 自分が5歳の時に親父が死んでから、母親が女手一つで育ててくれた。 親父と結婚…

赤い薔薇(フリー写真)

赤い薔薇の花束

数年前にお父さんが還暦を迎えた時、家族4人で食事に出掛けた。 その時はお兄ちゃんが全員分の支払いをしてくれた。 普段着ではなく、全員が少しかしこまっていて照れくさい気もした…

お花畑(フリー写真)

本当のやさしさ

遡ること、今から15年以上前。 当時、小学6年生だった僕のクラスに、A君というクラスメイトがいました。 父親のいないA君の家は暮らしぶりが悪いようで、いつも兄弟のお下がりと…

母(フリー写真)

母のビデオテープ

俺は小さい頃に母親を亡くしている。 それで中学生の頃は恥ずかしいほどグレた。 親父の留守中、家に金が無いかタンスの中を探していると、一本のビデオテープがあった。 俺は…

少年との出会い

少年がくれた希望の灯

1月の寒い朝になると、必ず思い出す少年がいます。 あれは、私が狭心症のため休職し、九州の実家で静養していたときのことでした。 毎朝、愛犬のテツと散歩に出かけていたのですが…

花嫁(フリー写真)

生きているうちに

大学生の時、友人Aちゃんは彼氏B君と同棲していました。 二人ともまだ学生だったため、両親から 「交際は許すが結婚はまだまだ先の事。責任を持った交際をすること(避妊をしっかり…

駅のホーム(フリー写真)

花束を持ったおじいちゃん

7時16分。 私は毎日、その電車に乗って通学する。 今から話すのは、私が高校生の時に出会った、あるおじいちゃんとのお話です。 ※ その日は7時16分の電車に乗るまでまだ…