彼女の遺言

恋人(フリー写真)

大学時代の同級生仲間で、1年の時から付き合っているカップルが居ました。

仲良しで、でも二人だけの世界を作っている訳ではなく、みんなと仲良くしていました。

私は女の方の一番の友達だったのだけど、彼氏とも仲良くしていました。

大学を卒業しても交流があったし、何度か会った時も二人は一緒で、本当に仲良しだなあ…と思っていました。

最後に三人で会った時、

「結婚しないの?」

と聞いたら、

「うん、まあね…」

とお茶を濁すような返事が返って来ました。

その後、彼女の病気が判り入院して、彼は仕事の行きと帰りに欠かさず彼女のお見舞いに行っていました。

私も何度も行きました。

病名は水頭症(脳腫瘍の一種)でした。

結局、治療も空しく、彼女はこの世の人ではなくなってしまったのです…。

私達が25歳の夏でした。

お通夜と告別式のお手伝いに行った時、喪服を着てちょこんと座り、タバコを吸っている彼に、

「…何て言って良いか、分かんないよ…」

と、私は泣きながら言いました。

すると彼は、

「そうだね。でも、これであいつが他の誰のものにもならない事が決まったしね」

と、ニッコリと笑顔で言いました。私は耐えられなくて号泣。

それでも彼は殆ど無表情で、まあまあと私の肩を抱いてくれました。

出棺の時、

「これが最後のお別れです」

と式場の人が言った途端、彼は耐え切れなくなって、崩れるようにボロボロと涙を流し始めました。

子供のように、大きな声を上げて。

その姿を見て、またしても私は号泣でした。

数日後、少し落ち着いてから彼と会いました。

見て欲しい物があると言うのです。

それは彼女が昏睡して意識を失う前に書いた、最後の手紙だったんです。

「俺はね、あいつを励まそうと思って『結婚しようよ』と言ったんだ。

そうしたら、あいつは『病気が治ったら結婚届けを出そうね』と言ってた。

俺は『間違いなく治るからさ』と励まして、役所に行って結婚届けを貰って来た。

でも俺は、本当はもう無理だって知ってたんだ。でも励ましたかったんだ。

あいつが死んだ日に、あいつのお父さんが黙ってこれを渡してくれた」

彼はそう言って、私に手紙を渡してくれました。

中には見慣れた彼女の筆跡で、こう書いてありました。

『うそつき。でも凄く嬉しかった。本当にそうなったらな…と何度も思いました。

私にはあなたの代わりはもう見つからない。だから私はずっとあなたのもの。

だけどあなたの代わりはいるんだよ。気にしないで良いからね。

落ち込んだあなたを、きっと一番励ましてくれるだろう人が誰なのかは、解ってるから。

その人にこの手紙を見せてあげて下さい。本当にありがとうございました。じゃあね!』

私はその手紙を見て、人前なのにまたしてもボロボロ号泣してしまって。

彼は、

「それは多分、君の事なんじゃないか?」

と言いました。

うん。私は前から彼が好きだった。

それから彼とお付き合いを始めて、もう4年になります。

関連記事

飛行機

航空自衛隊の物語

航空自衛隊の厳しさと、絆の深さを語る先輩からの物語。 航空自衛隊は、その名の通り、国の空を守る重要な任務を担う組織だ。 入隊する者は、数々の厳しい試験を乗り越え、日々の訓…

カフェ

遠くて近い二人

私はファミリーレストランでのひとときを静かに過ごしていました。 目の前のテーブルには、スーツ姿の中年の男性と、鮮やかな制服の女子高生が座っていました。 男性は痩せており、…

菜の花畑(フリー写真)

本当の豊かさ

中国のとある大富豪の男性が、自分の息子を田舎の土地に送りました。 裕福な生活を当たり前と思っている息子に、一度『貧しさ』というものを体験してもらい、自分たちの生活がどれだけ幸せな…

母と子(フリー写真)

懸命に育ててくれた母

私の父は幼い頃に亡くなり、母は再婚せずに私を育ててくれました。 母は学歴も技術もなく、個人商店のような仕事で生計を立てていました。 それでも、当時住んでいた土地は人情が残…

手紙(フリー写真)

神様に宛てた手紙

四歳になる娘が字を教えて欲しいと言ってきたので、どうせすぐ飽きるだろうと思いつつも、毎晩教えていた。 ある日、娘の通っている保育園の先生から電話があった。 「○○ちゃんから…

ラムネ(フリー写真)

笑顔でいるんだ

俺が小学生の頃、家のすぐ近くにお好み焼屋があったんだ。 その店はお婆さんが一人でやっているお店で、細々と続いていた。 俺はその頃いじめられててさ、でも家に帰っても家族には何…

ジッポ(フリー写真)

ジッポとメンソール

俺は煙草は嫌いだ。でも、俺の部屋には一個のジッポがある。 ハートをあしらったデザインは俺の部屋には合わないけど、俺はこのジッポを捨てる事は無いだろう。 一年前。いわゆる合コ…

あじさい

雨の日の再会

もう二十年前のことです。私が小さい頃、両親は離婚し、私は施設で育ちました。その後、三歳の時に今の親に引き取られ、その家庭で育ちました。私はその親を本当の親と思っていましたが、中学二年…

母と子

母の強さ

母は、バツニです。 1人目の旦那さんで兄と私を産み、2人目の旦那さんで妹を産みました。 1人目の父はギャンブル依存症で、多額な借金を抱え家に帰って来ないほどパチンコをして…

南国の空

背中を押してくれた人

仕事でどうしようもないミスをしてしまい、次の日に出勤するのがどうしても嫌で、気持ちが塞ぎ込んでいた時のことだった。 家に帰る気にもなれず、仕事帰りに普段は使わない電車に乗って、…