忘れられない生徒

公開日: 仕事 | 心温まる話

卒業証書(フリー写真)

高校教師です。

私が教えていた生徒に問題児の女の子が居ました。

彼女は成績も悪くなく、資格取得にも一生懸命なのですが、その原動力は強過ぎる学歴コンプレックスらしく精神も病んでいました。

オタクにもギャルにも優等生にもおっとりにも属さない彼女と仲良くする子が居なかったことも原因かもしれません。

親子関係も良くなく、進学についても悩んでいました。

親と話し合いなさいと言っても、聞いてくれないから無理の一点張り。

今までバイトも習い事も部活も親に決められて、やりたいことは向いていないと言われたと。

更に悪いことに担任の男性教諭とかなり仲が悪く、いつも激しい口論をしていました。

彼女の精神不安定は他の生徒に悪影響を及ぼすほどなので、なるべく外に連れ出したり話を聞いたりしました。

すると、精神不安定な子と思っていたのに、明るくて冗談も言える楽しい子だと気付いたのです。

でも怒る時はちゃんと怒りました。

担任と口論するのは、先生が嫌いなのではなく、男が怖いのだということも教えてくれました。

卒業を前にしても精神不安定は治らず、先生方はみんな彼女の心配ばかりしていました。

そして迎えた卒業式。

自殺するんじゃないかと思うほど暗い顔でした。

淡々と卒業式を済ませ、職員室にやって来て先生方にアルバムの寄せ書きを頼み、書いた後は手紙を渡していました。

私の所にも彼女はやって来ました。

私にも寄せ書きを渡し、笑顔で「ありがとう!」と言って手紙をくれました。

私の好きなディズニープリンセスのレターセットで、とても可愛かったです。

先生によってポケモンやキティ、リラックマ、メルヘンな動物と封筒が違ったので、一人一人考えてくれたのだと思います。

私はそれをすぐには読まず、家に持ち帰りました。

開けると手紙と私の似顔絵が。

絵にはかなりリアルな私の似顔絵が描かれ、昔流行ったようなキラキラしたペンで『○○ちゃん先生大好き』と添えられていました。

手紙には、

『大学は高校の教員免許しか取れないけど、○○ちゃん先生みたいな先生になるね。

高校教師の免許を取って大学卒業したら、通信で中学の免許取るから応援してね。

友達は遠巻きに距離を置くだけだけど、先生は喋ってくれて嬉しかった。本当にありがとう』

と、達筆な字で書かれていました。

前に、

「高校でいいじゃん。高校おいでよ」

と冗談で言ったのですが、義務教育に携わりたいそうです。

僻地や荒れた学校で成績や家庭環境、性格様々な子の支援がしたいと夢を語ってくれました。

教員になって数年。私の忘れられないエピソードの一つです。

彼女は今は大学生。

彼女の状態が良くなり、夢を叶えた姿を見せてくれることを楽しみにしています。

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