夏の記憶、婆ちゃんとツトム

公開日: 心温まる話

夏のスイカ(フリー写真)

昨年の夏、私は高知を訪れた。

熱波が街を包み、頭がクラクラするほどだった。

R439を目指して進む中、中村市の近くに来た。

そこには、一人の婆ちゃんがビーチパラソルの下、スイカとトマトを売っていた。

その場面に引き込まれ、バイクを停めて近づいた。

「おばあちゃん、こちらで食べても大丈夫ですか?」と尋ねると、

彼女は笑顔で頷き、スイカを切り分けてくれた。

冷たくて甘いスイカは、夏の渇きを癒してくれた。

「トマトもいかが?」と優しく勧められ、

真っ赤なトマトを一口食べたとき、彼女は言った。

「ツトム、今日は学校休みなのかしら?」

彼女の瞳には遠くの日々が映っていた。

彼女が混乱していることに気づくのに、少し時間がかかった。

「そうだよ、これから学校へ行くんだ」と答えると、彼女は優しく微笑みながら

「ツトムはよく勉強していた」と言った。

夏の青い空の下、時がゆっくりと流れていた。

風が草の匂いを運び、私たちの周りは静寂に包まれていた。

私は、彼女の話の中の「ツトム」が誰なのかを考えながら、

その場にいることの幸福を感じた。

夏が再びやってくる。

あの婆ちゃんは、再びスイカを売っているだろうか。

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