天国のお父さんへ
公開日: 心温まる話
幼くして父親を亡くした女の子が、小学校に入学する頃のことでした。
周りの子はみんな、親から買ってもらった赤いランドセルを背負って通学していました。
しかし、その子の家庭は幼くして父親を亡くし母子家庭でしたから、ランドセルを買ってもらえるほどの余裕が無かったそうです。
もちろん、家に余裕の無いことが解っていたその子は、ランドセルが欲しくても母親にねだることは出来ません。
子供ながらに、それはお母さんを困らせてしまうことだと解っていたからです。
でも、毎日友達と通学していると、どうしても自分もあの赤いランドセルが欲しくて欲しくてたまらなくなります。
だから通学路にあるお店のショーウィンドウに飾ってある、新品でピカピカの赤いランドセルをいつも眺めていたそうです。
※
そんなある時、彼女は考えました。
『お母さんに迷惑を掛ける訳には行かない。
でも、私もあの赤いランドセルが欲しい……。
そうだ、お父さんにお願いしてみよう!!
きっとお父さんなら、私の願いを叶えてくれるに違いない!!』
そう思った彼女は、天国に居るお父さんに手紙を書くことにしました。
まだ習いたてのひらがなで、一生懸命にお父さん宛のハガキを書きました。
※
『てんごくの おとうさんへ
わたしは、ことししょうがくせいになりました。
べんきょうもがんばっています。いっぱいがんばって、おかあさんをたすけようとおもいます。
だから、おとうさんにおねがいがあります。わたしに、あかいランドセルをください。
いっぱい、いっぱい、べんきょうして、がんばるから。いいこにしているから。おねがいします』
もちろん、天国へのハガキです。
宛名は『天国のお父さんへ』と書いてポストに投函したそうです。
※
郵便局の職員の方が、そのハガキを集配する時に見つけました。
宛名は天国……。
ハガキの表には、幼い彼女が一生懸命に書いたあの文章……。
いつものように差出人不明で送り返す訳にも行かず、このハガキを手に取った職員がどうしたら良いんだろうと仲間の職員の方に相談したそうです。
「ねぇ、見て、このハガキ……。どうしたらいいだろうかぁ……。
送り返すにはあまりにも残酷だよね」
「う~ん……。そしたら、僕たちがこの子の天国のお父さんになろうよ」
「えっ、どうやって」
「仲間みんなにお願いしてさぁ、ちょっとずつお金を出し合って、ランドセルを買ってあげようよ!」
そして、郵便局の職員のみんなでちょっとずつお金を出し合い、真っ赤なピカピカのランドセルを買うことにしました。
そしてそのランドセルを小包に入れ、その郵便局の中で一番字の上手い人が代表してお父さんのメッセージを書き、その子の家に送ったそうです。
※
『○○ちゃん、お手紙ありがとう。
お父さん、とっても嬉しかったよ。
いつも頑張っているのを天国から見ているからね。
これからも、優しい人になってね。そして、お母さんを助けてあげようね。
天国からいつも○○ちゃんのことを応援しているよ。
ちょっと遅くなったけど、ランドセル贈るね!!』
※
数日後、ランドセルとメッセージの入った小包が女の子のところに届きます。
その女の子は飛び跳ねるように喜び、お父さんからランドセルをもらったと、はしゃいでいたそうです。
そして数年後にこの話を作文に書き、全国のコンクールで入賞したそうです。