果物の命
昔、24時間営業のスーパーで働いていた。
この時期はただえさえ寒い上に、店内に冷房が効いていて凄く寒かったな。
それはさておき、その年は柿が凄く美味しかったんですよ。
それで、うちも沢山柿を置いた。入口の近くにね。
働いた経験がある人なら解ると思うが、斜めの棚に陳列してある果物は、よくお客さんに落とされちゃうことがある。
もちろん拾って棚に戻すんだけど、すぐ痛んできてしまって、誰にも選ばれず結局買われないまま廃棄、というのが定番パターン(店員が貰うのも限界がある)。
そんな中、いつも夜遅くに来ていたカップルの行動が泣けた。
いつも男の方が先にスーパーに来て、女の子が後から荷物(仕事帰りのようだ)を抱えてスーパーに入って来る。
男の方が料理が上手いようで、女の子が来るまで男はスーパーの中をぐるぐる回りながら色々考え、女の子が来ると嬉しそうに駆け寄り、その日の献立の予定を話すのがいつものパターン。
いつも果物棚の前くらいで落ち合っていたんだけど、その日は柿が美味しそうだねと、そのまま柿の棚を眺めていた。
女の子は柿がとても好きみたいで、
「すごいね」「真っ赤できれいだね」「立派だねえ」「神さまが作ったみたい」
と、ひたすら柿を誉めまくり。
うちは果物に力を入れていたから、離れたレジで聞いていて嬉しかった。
そんなことを話しながら彼女が手に取った柿が痛んでいたものだったみたいで、思わず声を上げる女の子。
女「あっ!これ可哀想だよ」
男「あ、ほんとだね。落ちたのかな?」
女「きっと買ってもらえないよね、これ」
男「そうだろうねえ…」
女「…」
女「これ、買っていい? 他にも痛んでる柿を今日は買って帰りたいな」
男「ええっ!でも安くないし、今あんまりお金ないよ」
女「今日剥いて食べちゃだめ? 剥くのめんどい? せっかくこんなに綺麗に生まれて来たのに、捨てられたら凄く可哀想だよ。お金は私が出す!」
男「じゃ、じゃあ分かったよ(苦笑)」
何かじーんときたよ。それで本当に痛んだ柿を5つ買って行った。
今思えば半額にしてあげれば良かったな。
自分の家が農家だから何となく、野菜は生きていると思う時がある(経営側からすればそんなことは言っていられないんだろうけど)。
だから、その女の子が柿を買って行った時は、ぼんやりと日本人で良かったなと思った。
彼氏も夜遅くに柿を剥いてくれたのかな? ちょっと羨ましいなとも思った。
でも今でも覚えている私の好きなエピソードです。