自衛隊最大の任務

朝焼け空(フリー写真)

「若者の代表として、一つだけ言いたいことがあります…」

焼け野原に立つ避難所の一角で、その青年は拡声器を握り締め話し始めた。

真っ赤に泣き腫らした瞳から流れる涙を拭いながら、搾り出すように、しかしハッキリと話を続ける。

「これから僕らが、この神戸を立て直して行かなければなりません。

その後ろを押してくれたのが自衛隊の人達です」

周りに居た大人達も涙を流し、そして思わず、今日別れることになった陸自・災害派遣部隊の人々に駆け寄る。

「長い間、ありがとうございました!」

青年はそう叫ぶと、一人の自衛官の胸に飛び込み、そして声を出して泣き出した。

自衛官も頼もしい腕で抱き締め、共に泣いた。

『自衛隊さん、ありがとう』

そう書かれた横断幕が風で揺れる中、自衛隊最大の任務はここに幕を閉じた。

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