赤い薔薇の花束

公開日: 家族 | 心温まる話 | |

赤い薔薇(フリー写真)

数年前にお父さんが還暦を迎えた時、家族4人で食事に出掛けた。

その時はお兄ちゃんが全員分の支払いをしてくれた。

普段着ではなく、全員が少しかしこまっていて照れくさい気もした。

当時はまだ学生だった私も社会人となった。

お母さんの還暦のお祝いは、家族で温泉旅行に行こうとお兄ちゃんと話し合った。

両親に伝えると、とても喜んでくれた。

家族旅行なんて久しぶりのことだった。

私が高校に入ってからは、自然と行かなくなっていた。

旅館の部屋は思っていたよりも結構広くて綺麗だった。

食事も豪華で、両親共に大満足のようだった。

お母さんと一緒に温泉に入り、背中を流してあげた時、何だか小さく感じた。

今まで私たちの為に沢山頑張ってきてくれたのだと思った。

その日の夜、家族4人で並んで眠った。

子供の頃からそんな風に全員が並んで眠ることはなかった。

私の記憶にある家族旅行では、ホテルで二部屋に分かれて泊まっていた。

でも何だか懐かしいような気持ちになった。

家族旅行をプレゼント出来て、本当に良かったと思った。

旅行から帰宅し、リビングでお茶を飲んでいるとチャイムが鳴った。

珍しくお父さんが玄関へと向かった。

お父さんの後に玄関へと向かったお母さんが驚きの声を上げた。

お母さんの声を聞いて、私とお兄ちゃんも玄関へ向かった。

駆け付けた私が目にしたものは、まるで想像していなかったものだった。

お母さんが大輪の赤い薔薇の花束を抱えていた。

お父さんは少し照れているようだった。

お兄ちゃんが私にそっと耳打ちした。

「親父に相談されて僕が手配したんだ。60本あるんだよ」

こんなサプライズがあったなんて、とても驚いた。

薔薇の花束を持つお母さんは、まるで少女みたいな笑顔だった。

お父さんのことがいつもより格好良く見えた。

関連記事

おでこを当てる父と娘(フリー写真)

もうおねえさんだから

7ヶ月前に妻が他界して初めて迎えた、娘の4歳の誕生日。 今日は休みを取って朝から娘と二人、妻の墓参りに出掛けて来た。 妻の死後、暫くはあんなに 「ままにあいたい」「ま…

お手玉(フリー写真)

私のこと忘れないでね

遠い昔、私が小学4年生の頃の話です。 当時の僕は人見知りで臆病で、積極的に話しかけたりするのが出来ない性格でした。 休み時間、みんなは外に出て遊んでいても、僕は教室の椅子…

夕日(フリー写真)

戦時中のパラオにて

遠い南の島に、日本の歌を歌う老人が居た。 「あそこでみんな、死んで行ったんだ…」 沖に浮かぶ島を指差しながら、老人は呟いた。 ※ 太平洋戦争の時、その島には日本軍が進駐…

母の手を握る赤ちゃん(フリー写真)

生まれて来てくれて有難う

親と喧嘩をし「出て行け」と言われ、家を飛び出して6年。 家を出て3年後に知り合った女性と同棲し、2年後に子供が出来た。 物凄く嬉しかった。 母性愛があるのと同じように…

兄弟(フリー写真)

最強最高の兄ちゃん

両親は俺が中学2年生の時、交通事故で死んだ。 俺には4つ上の兄と、5つ下の妹が居る。 両親の死後、俺は母方の親戚に、妹は父方に引き取られて、兄は母方の祖父母と住んでいた。 …

クリスマスプレゼント(フリー写真)

サンタさんから頼まれた

※編注: このお話は、東日本大震災発生から5日後の3月16日に2ちゃんねるに書き込まれました。 ※ 当方、宮城県民。 朝からスーパーに並んでいたのだが、私の前に母親と泣きべそ…

教室

見落とされた優しさ

私は昔から何事にも無関心で無愛想でした。友達は少なく、恋愛経験もほとんどありませんでした。偽りの笑顔やうそをついて生きる日々は、いじめの対象になることもありました。 中学1年の…

金魚すくいをする女の子(フリー写真)

兄妹の金魚すくい

俺が打っている店(金魚すくい)に、兄妹と思われる7歳ぐらいの女の子と、10歳ぐらいの男の子がやって来た。 妹は他の子供たちが金魚すくいをしているのを興味津々で長い間見ていたが、や…

浅草の三社祭の提灯(フリー写真)

母のガイドブック

東京で単身赴任をしていた時、連休になるといつも嫁が来て、家事などをしてくれていた。 母にも、偶には東京に来いよと言っていたのだけど、人混みが苦手だと言い、決して来なかった。 …

手を握る(フリー写真)

仲直り

金持ちで顔もまあまあ。 何より明るくて突っ込みが上手く、ボケた方が 「俺、笑いの才能あるんじゃね」 と勘違いするほど(笑)。 彼の周りには常に笑いが絶えなかった…