学生時代の思い出
俺が中学生の時の話。
当時はとにかく運動部の奴がモテた。
中でも成績が優秀な奴が集まっていたのがバスケ部だった。
気が弱くて肥満体の俺は、クラス替え当日から、バスケ部員の同級生二人に目を付けられてしまった。
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学級委員のIは、とにかく品行方正厳格を絵に描いたような奴だった。
俺が少しでもトロトロ鈍臭い行動を取ったり、何か些細なミスをしたら、ビシッと雷を落としてきた。
その時はマジで背筋がピンとなるし、本当にヘコんだ。
自分の不甲斐無さに自己嫌悪に陥る毎日だった。
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最悪なのはもう一人のバスケ部員K。
長身の男前で、チャラいという表現がピッタリ当てはまる奴だった。
そいつとは出席番号が隣同士だった。
50メートルの記録を計る時に、
「こんな豚と一緒に走ると、俺までタイム遅くなるわ」
と、大声で嫌味を言うような奴だった。
その時はいつも拳を握って耐えていた。
KよりIが怖かったからだ。
殴りかかってもし怪我でもさせたら、バスケ部繋がりで何を言われるかと思うと、すっかりビビってしまっていた。
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ある時、まだ携帯電話も無い時代のこと。
俺はあるアイドルの写真を週刊誌などでひたすら集めて、友人に自慢じゃないけど見せて楽しんでいた。
するとクラスのイケている女子から声を掛けられた。
普段は自分と話す階級の子ではない。
俺は最下層のイケていない男子だから(笑)。
「アイドルの写真、少しくれない?」
笑顔の可愛い彼女を見たら、下心などではなく話せた喜びから、アイドルの切り抜きをあるだけ譲った。
彼女が立ち去った後、Iがやって来た。
『やばっ、また雷を落とされる?』と内心ビビった。
「馬鹿だな、お前は。あの女、Kの彼女だぞ。利用されたんだよ、お前は」
つまりKもそのアイドルのファンだった訳で…。
情けなくて泣きそうになった。
ただ不思議だったのは、その時のIの口調が優しかったんだよね。
そのためか思ったより立ち直りが早かった。
※
暫くして、校内相撲大会の団体戦をすることになった。
毎年恒例の学校行事で、クラス対抗戦だ。
Kがまた嫌味を言ってきた。
「豚、お前のためにある大会じゃねーか、出ろよ」
アイドル切り抜きの件もあり、流石にブチ切れた。
『やってやろうじゃん』みたいな感じ。
その瞬間、Iがいきなり意外な言葉を発した。
「賞状欲しいしな。強い奴を選ぶのが当たり前だろうよ」
デブだが力もあり、相撲もそこそこ強かった俺は、団体戦の大将に推薦された。
Iは副将、背が高いし何よりガタイが良い。
この時も不思議に思ったのは『俺より強いのに何故Iではなく俺が大将なん?』ということだった。
Kもガタイが良いから、選ばれた。
上半身裸でジャージにまわしが嫌だとぶーたれていたが、Iの
「出ろよ」
の一言で、相撲大会に出場へ。
※
そして、試合当日。
Kが小芝居をしながら、
「腹壊したから出れない」
と言う。仮病だと丸分かりだった。
その時もIが
「根性無いやつだな、彼女に出るなとでも言われたのか?」
と、クラス全員の前でKを罵倒した。
真っ赤な顔になり、教室から逃げ出すように出て行ったK。
団体戦は残念ながら、8クラス中4位だった。
3位まで賞状を貰えたのに。
3位決定戦で、大将の俺が負けたせいだった。
前の試合で巨体相手にぶん投げられ、足首を捻挫していた俺。
3位決定戦の相手は、柔道部の巨漢だった。
それでも腫れ上がった足首など気にせず、向かって行った。
土俵俵まで追い詰めたんだが、柔道技で見事にぶん投げられ、逆転負け。
試合が終わり、項垂れるみんな。
俺も責任を感じて半泣きだった。
でも、誰も俺を責めに来なかった。
※
次の日、足を引き摺りながら教室に入ると、Kが居た。
「おい豚、悲劇のヒーロー気取りか」
冷ややかな笑い。
負けた負い目から、俺は耐えるしかないなと諦めていた。
次の瞬間だった。
「下痢ピーは治ったんか? K」
Iだった。
「お前に、こいつ責める資格あんのか?」
Kがビビっているのが、手に取るように解った。
「バスケ部でも、練習はチンタラやるだけ。こいつ(俺のこと)より勉強も出来ねーだろ。
50メートル走も、タイム変わらんじゃねーか」
俺が言いたいことをIが全て言ってくれている。
「お前がこいつより優れてるのは、ずる賢い彼女が居るかくらいだろが。
アイドルの写真はどうした? 彼女にちゃんと貰えたのか?」
泣きそうな顔のK。
あまりの発言に口あんぐりの俺。
その日、早退したK。
アイドルの切り抜きは何故か数日後、俺の机の上にあった。
※
卒業前になって、Iに聞いてみた。あの時のことを。
「何で、俺を庇ってくれたん?」
Iは照れ臭そうに、
「お前、鈍臭いけど真面目に一生懸命だったからな。何事も。
あと、Kは気に食わなかった。バスケ部繋がりと思われんのも、嫌だったのよ。
実際バスケ部の肩書きも、俺のかさ借りて威張り散らしてたしな」
何か納得した。
「怒る時は怒ればいいんよ。お前、俺に気を遣ってKのこと我慢してたのも、俺は知っていたからな」
涙が出そうになった。
※
同窓会があれば会えたんだろうが、三年の時にIとは別クラスだったんだよな。
既にもう天国に逝ったと聞いたI…。
思い出の中では、勝手に俺の友達にしているけど、許してくれよ。
いつか、あっちで会おうや。