命があるということ

山からの眺め(フリー写真)

普通に生きて来ただけなのに、いつの間にか取り返しのつかないガンになっていた。

先月の26日に、あと三ヶ月くらいしか生きられないと言われた。

今は無理を言って退院し、色々な人に会いに行っている。

湿っぽくなるのが嫌だから事情は話さず、体調の良い日は友達やお世話になった人と、いつもと変わらない感じでご飯を食べに行っている。

昨日は高校時代の恩師と行った。

その人は私にバイクに乗らないかと薦めてくれた人で、夏になると一緒にツーリングへ行っていた。

バイクはもう乗れないから、その人に譲ろうと思っていた。先生はその日もやはりバイクで来ていて、かなり羨ましかった。

ご飯を食べながら、色々話した。高校時代のことや、卒業してからも様々な相談に乗ってもらって、凄く嬉しかったということ。

そしたら、

「お前(私)が最近、他の奴ら(当時からの付き合いの友達など)とそういう話をしていて、様子がおかしいって聞いた。何かあったか?」

と聞かれた。

絶対に他の奴らには言わないで欲しいとお願いして、病気のことと余命のことを話した。

そして、先生にバイクを譲るということも言った。

大事に乗り続けると約束してくれた。

店を出てから、先生に

「まだ元気あるか?」

と聞かれた。

「座ってる分には大丈夫」

と答えると、

「ちょっと待ってて」

と言って、バイクで颯爽と走り去った。

何だか解らないけど、泣けた。

暫く店の駐車場で待っていたら、先生がホームセンターでメットを買って来た。

それを私にくれて、

「後ろ乗って」

と言った。

先生の腰に回した私の手は凄く頼りなくなっていて、すぐに振り落とされそうだった。

「乗りたいけどムリですわ」

と私が言うと、先生が着ていたTシャツを脱ぎ、私の手を括り付けてくれた。

先生も泣いていた。

それから初めて一緒に走った。近くの登山道へ行った。

凄くゆっくりなスピードだったけど。

展望台のようになっている所にバイク停め、ベンチで休んだ。

先生は、

「この後、凄く苦しむかもしれないし、辛いことも一杯あると思う。

その時は呼んでくれれば行くから。

生きてて良かったと思えることを、まだまだ作ろう。

まだ○○(私)は生きてるよ。諦めるな」

と言ってくれた。二人して号泣した。

誰に話して良いか分からないから、ここに書かせてもらいました。

週明けに病院へ戻ることに決めました。

正直、昨日告知されてから初めて、まだ生きていたいと思えたから。

分からないけど、もう少し足掻いてみます。

自己満足な文章でごめんなさい。

行って来ます。

友人の方からの投稿

ここの掲示板に上の文章を書いたのは、私の友達です。

『涙が出るほどいい話3.0』という板に書いてあるのだけど、見た人はまだここに居るのかな。居ないかも。

でも、そいつが亡くなって今日で丸三年。長文だけど書かせてもらう。

亡くなった後、そいつのパソコンを見たらデスクトップにテキストファイルがあった。

そこには彼女の書き込みと、それに対するレスがコピペして保存されていた。

ファイルのタイトルは『涙が出るほどいい話3.0』。

彼女が亡くなる数日前にお見舞いへ行った時、

「掲示板が見たい」

と言っていた理由が解った。

私たちは、

「大変な時に何言ってんだよ」

と笑い飛ばしたんだけど。

彼女はレスに励まされたんだと思う。

きっと感謝を書き込みたかったんだろうと思う。

そのテキストファイルを読んで、私は泣いた。

だから、彼女の代わりに言わせてもらう。

あの時、レスをくれた方々、ありがとうございました。

彼女は意識混濁状態にまでなりましたが、最期まで足掻き続けました。

皆さまに温かい励ましをいただいたおかげだと思います。

本当に、ありがとうございました。

彼女に代わり、お礼を申し上げます。

関連記事

学校の教室(フリー写真)

初めての親友

中学3年生の夏。私に不登校でオタクな女の子の友達が出来た。 切っ掛けは些細なことだった。担任の先生が、 「運動会の練習をするから、△△ちゃんを呼びに行って!」 と、何…

花束(フリー写真)

大切なあなたに花束を

私は介護施設で働いています。 時々おじいちゃんやおばあちゃん宛に、ご家族の方よりお手紙や花束が届きます。 花束を持って行くと、皆さん集まって来ます。 自分かもしれない…

ブーケを持つ花嫁(フリー写真)

手渡しのブーケ

私はウエディングプランナーの仕事をしています。 これまで沢山の幸せのお手伝いをさせていただきましたが、忘れられない結婚式があります。 新婦は私より大分年下の十代で、可愛らし…

美しい人生(フリー写真)

お帰りなさい

マニュエル・ガルシアは元気で頼もしく、近所でも働き者と評判の父親だった。 妻に、子供に、仕事に、将来、全て計画通りに運んでいた。 ある日、マニュエル・ガルシアは腹の痛みを訴…

クリスマスツリー

サンタさんへ ― 6歳の願いごと

クリスマスの数日前、6歳の娘が、欲しいものを手紙に書いて窓際に置いていました。 ピンクのキティちゃんの便箋が、丁寧に折りたたまれていて。 「何が欲しいのかなぁ」と、私と夫…

森

英雄の最期と不朽の絆

我が家に伝わる語り草、それは遠く南の地で戦ったおじいちゃんの物語である。 具体的な国名までの記憶は色褪せているが、彼が足跡を残したのは深緑に覆われたジャングルの地だった。 …

カーネーション(フリー写真)

本当のお母さん

俺が6歳の頃、親父が再婚して義母がやって来た。 ある日、親父が 「今日からこの人がお前のお母さんだ」 と言って連れて来たのだ。 新しい母親は、俺を本当の子供のよ…

オフィス(フリー写真)

苦手だった部長

その時の部長は凄く冷たくて、いつもインテリ独特のオーラを張り巡らせている人だった。 飲みに誘っても来ることは無いし、忘年会などでも一人で淡々と飲むようなタイプ。 俺はよく怒…

終電(フリー写真)

精一杯の強がり

彼とは中学校からの付き合いでした。 中学校の頃から素直で、趣味などでも一つのことをとことん追求するような奴でした。 中学、高校、大学と一緒の学校に通い、親友と呼べる唯一の友…

菜の花畑(フリー写真)

本当の豊かさ

中国のとある大富豪の男性が、自分の息子を田舎の土地に送りました。 裕福な生活を当たり前と思っている息子に、一度『貧しさ』というものを体験してもらい、自分たちの生活がどれだけ幸せな…