とおしゃん
今日、息子が俺の事を「とおしゃん」と呼んだ。
成長が遅れ気味かもしれないと言われていた子で、言葉も覚えるのも遅かったから、あまりの嬉しさに涙が出た。
「嫁か息子か選べ」
そう言われたあの日⋯。
最後まで諦めず「運に賭けてみよう!」と言った俺は楽観的だった。
医学だって今は発達しているし、嫁の病気での致死率は何千人に一人だし。
元気に育たないかもしれないと言われた息子だって、臨月まで何の問題もなく育った。
それでも、息子の誕生日は嫁の命日になった。
『あの時、嫁を選んでいれば』と、正直に言えば今でも時々考えてしまう。
でも、息子を選んだ事も幸せだったのだと、俺は心の底から思っている。
さあ、今度は「母さん」って言葉を教えてやろう。