俺の娘が、俺の嫁になった話

公開日: 夫婦 | 子供 | 家族 | 心温まる話 | 長編

ウェディングドレスの女性(フリー写真)

俺には、嫁がいない。

正確に言えば、嫁はいたのだが、病気で先立ってしまった。

ただ、俺には10歳の娘がいる。

娘は本当にヤンチャで、しょっちゅうケンカして帰って来る。

もう良い年だっていうのに、小学校低学年みたいな理由でケンカして帰って来る。

何やってんだ。

そう言えば、娘が最近料理をやり始めた。

普段から料理は全部嫁さんに任せていたからてんでダメで、俺の下手くそな料理が気にいらないんだと。

口の減らないガキだな。

まぁ、めんどかったから良かったけど。

そのせいか、最近いつもやたら早く帰って来る。

友達いないんか、こいつは。

しかも、いちいち「一緒にご飯食べよ!」とか、「一緒に寝よ!」とか、ガキかてめえは。

あ、ガキだったな。

そんな娘が25歳になった。

何かよ、結婚するんだと。

まぁ当然俺も呼ばれるわな。

バージンロード、一緒に歩いて欲しいとか、そんなんしんどいわ。

まぁ、でもこれでようやく娘が離れてくれる。

この15年間。

料理は私が作るとか言い出してから早15年経つわけだ。

いつもいつも俺に料理なんか作って、一緒に食べて、一緒の部屋なんかに寝て、正直鬱陶しいと思う連続だったわ。

まぁ退屈はしなかったが、せいせいするわ。

華やかに彩られた式場。

煌びやかな衣装を身にまとった娘。

父へ贈る言葉。

「母さんへ」

って、母さんにかい。

「約束は守ったよ」

はい?

「母さんがいなくなってから、母さんの代わりに毎日ご飯作ったり、一緒に寝たり。

そうそう、父さんは面倒くさがり屋さんだから、ムッとしてても気にしなくてもいいって言ってたの、本当だったね。

最初は不安だったけど、ある時、ふと不意に覗いて見たらにやけているのを見ました」

見られてたんかい。

「父さんね。口では、めんどくさい、しんどい、って言っていても、なんだかんだ付き合ってくれるし。ちゃんと私のこと見ていてくれるし。

口は悪いけど、欲しい時に欲しい言葉、ちゃんとくれたよ。

私のご飯、最初は全然おいしくなかったのに、食べる度に美味い、美味いって沢山言ってくれた。

あの初めて作った肉ジャガとかひどかったのにね。

母さんが父さんに惚れた理由が解りました」

やめろ、恥ずかしい。

「私も父さんが大好きです。

だからかな。

母さんが最後に私にお願いした、私が結婚に行くまでは父さんのお嫁さんになってあげてってこと、守って行けました。

父さんは寂しがり屋だから、一緒にいてあげないとダメダメだからって。

まぁ、大人みたいにキスするとか、恥ずかしくて出来なかったけど、それ以外の嫁っぽいことは沢山してあげれたよ。

だから、うん、いつも一緒にいたから、寂しくなさそうだったよ」

あぁ、退屈はしなかったな。

「そういえば隠してたけど、たまに、父さんの事、片親だーってバカにしている人もいたけど、その度、ケンカしました。

ボコボコにして言ってやりましたよ、私が嫁だからいーのって」

だからよくボロボロになって帰って来てたんかい。

「何か、周りから変な目で見られたり、バカにされ続けたけど、全然辛くなかった。何せ、私の父さんは、自慢の旦那だったからね」

旦那言うな。

「でも、

でもね。

もう、一緒にいてあげられないよ。

もう一人、大好きな人ができました」

……。

「私はこの人と一緒に生きます。だから、母さんとの約束はここまでだね。

本当は離れたくない、離れたくないよ。

ずっと一緒にいたいよ。

でもね、ごめんね。

ごめん…ごめっ…」

バカやろう。

「父さん、私、お嫁に行っちゃうよ!

行っちゃうからね!

約束守ったからね!!」

ああ。

「だから、私がいなくてもちゃんと料理作るんだよ!コンビニの惣菜ばっかじゃダメだからね!」

えー、めんどくさいな。

「私がいないからって、暑い時にクーラーをガンガンにかけて寝ちゃダメだよ!風邪ひいちゃうからね!」

それはしんどいな。

「あとね、あとね…。

あれ、なんでだろ。

涙が止まらないや。

止まらないよっ…。

父さんっ…」

あの、バカやろう…!

俺は嫁に駆け寄って、全力で抱き締めてやった。

旦那が驚いて見てやがる。

今日だけは許せ。

「あのなぁ、これから人様の嫁になるって言うのに、こんなことでなに泣いてやがるんだよ。

母さんがいなくなった時だって、泣いてなかったくせに。

前だけ見やがれ。

旦那が心配するだろ。

お前には輝かしい未来があるんだ。

俺なんかと一緒にいるよりも輝かしい未来が。

誇りに思えよ、こんな物臭野郎の嫁を15年もやってたんだ。

誰とだって上手くいく。

幸せになれる。

お前にはその権利があるんだ。

だから、早く幸せになっちまえ」

でも、父さんが一人に…。

「バカやろうが。

俺は一人だって生きて行ける。

中年おっさんを舐めるなよ。

ほら、旦那が見てるだろ。

早く泣きやめ」

周りの連中が沈黙で俺たちを見守っている。

恥ずかしい。

ただ、言わなきゃならないことができた。

旦那の前に立つ。

「この通り、俺みたいな野郎のためにすぐ泣くがな。

15年も一途に俺みたいな野郎に尽くす、できた女だ。

他にはなかなかいないぜ。

すごいだろ。

そんなできた女を、旦那、お前にやる。

感謝しろよ。

ただし、

一つだけ約束しろ。

いいな。

これだけは絶対に破るな。

幸せにしてやってくれ。

全力で幸せにしてやってくれ。

こいつは、色んなものを犠牲にし過ぎた。

本来味わえるはずだった、輝かしい青春時代。

全部、俺にくれた。

こいつはもう、幸せになっていいはずだ。

だから、

頼むから、

頼むから、必ず、幸せにしてやってくれ…!」

俺は生まれて初めて全力で頭を下げた。

旦那は、力強く頷いた。

よし、もう思い残すことはない。

何か、色々やらかして恥ずかしいので、退散することにしよう。

俺は式場を後にした。

勢いで出てきちまったけど、この後どうするかな?

まぁ、取り敢えず夕飯のこと考えるか。

そうだな。

献立は、

嫁が初めての手料理で作ってくれた、肉ジャガにするか。

投稿者: Noyaさん

東京ドーム(フリー写真)

野球、ごめんね

幼い頃に父が亡くなり、母は再婚もせずに俺を育ててくれた。 学も無く技術も無かった母は、個人商店の手伝いのような仕事で生計を立てていた。 それでも当時住んでいた土地にはまだ人…

ハンバーグ(フリー写真)

お母さんの弁当

俺の母さんは、生まれつき両腕が不自由だった。 なので料理は基本的に父が作っていた。 でも遠足などで弁当が必要な時は、母さんが頑張って作ってくれていた。 ※ 小学六年生の…

猫(フリー写真)

息子が教えてくれた

ある日、子供が外に遊びに行こうと玄関の戸を開けた。 その途端、まるで見計らっていたかのように、猫は外に飛び出して行ってしまいました。 そして探して見つけ出した時には、あの子…

手を繋ぐ恋人(フリー写真)

握り返してくれた手

今から6年前の話です。 僕がまだ十代で、携帯電話も普及しておらずポケベル全盛期の時代の事です。 僕はその頃、高校を出て働いていたのですが、二つ年上の女性と付き合っていました…

虹(フリー写真)

人生

1960年に私は生まれて、今まで生きてきた。 いたずらっ子だった小学生時代。 落ちこぼれだった中学生時代。 レスリングに出会い、スポーツが何たるかを学んだ高校時代。 …

ベトナムの夕日(フリー写真)

あの子は僕の友達なんです

ベトナムの村にある宣教師たちの運営する孤児院が、爆撃を受けてしまいました。 宣教師達と二人の子供達が即死し、その他の者も重傷を負いました。 重傷になった者達の中でも、8才の…

スケッチブック(フリー写真)

手作りのアルバム

うちは貧乏な母子家庭で、俺が生まれた時はカメラなんて無かった。 だから写真の代わりに、母さんが色鉛筆で俺の絵を描いてアルバムにしていた。 絵は決して上手ではない。 た…

チューリップ(フリー写真)

立派なお義母さん

結婚当初は姑と上手く噛み合わず、会うと気疲れしていた。 意地悪されたりはしなかったけど、気さくでよく大声で笑う実母に比べ、足を悪くするまでずっと看護士として働いていた姑は喜怒哀楽…

手紙を差し出す女の子(フリー写真)

パパと呼ばれた日

俺が30歳の時、一つ年下の嫁を貰った。 今の俺達には、娘が三人と息子が一人居る。 長女は19歳、次女は17歳、三女が12歳。 長男は10歳。 こう言うと、 …

お年寄りの手(フリー写真)

おばあちゃんが注いだ愛情

こどもの発達がちょっとゆっくりで、保健センターに通っている。 そこの母子教室の最中、おばあちゃんと男の子が二人、迷い込んで来た。 「すみません、里親会の集まりの会場はここで…