おばあちゃんの愛情

公開日: 家族 | 心温まる話 | 祖父母

受験(フリー写真)

俺の家庭は自分と母親、それとおばあちゃんの三人で暮らしている。

親父は離婚していない。パチンコなどのギャンブルで借金を作る駄目な親父だった。

母子家庭はやはり経済的に苦しく、母さんは毎日働いている。

おばあちゃんは汚い服ばかり着ている。

俺には行きたい大学がある。でもお金がかかるから本命の学校だけを受験し、駄目だったら就職しようと思っていた。

結局、俺は大学に落ちてしまった。

『すぐに就職先を見つけなきゃいけないな』

と考えていたら、俺の部屋におばあちゃんがやって来た。

「大学、落ちちゃったんだってね」

と、おばあちゃん。

「うん。でも良いよ。俺、就職するからさ」

と少し強がり、俺は笑って見せた。

するとおばあちゃんは、古くて汚い手提げ袋から札束を出した。

『え…。何、このお金…』

と俺が絶句していたら、

「行きたい大学があるんじゃろ? だったら行きんさい。

お金のことなら心配せんでええ。まず、これで予備校に行きんさい。

年寄りは金持ちやで。それに、ちょうどばあちゃんな、何かに使おうて思ってたんじゃ」

そう言いながら、皺々の手で札束を俺に握らせた。

そして俺の部屋から出る時、

「頑張りんさい」

とだけ言い残して出て行った。

それから俺、母さんにおばあちゃんのことを聞いたら、

「おばあちゃんね、あんたが産まれてからずっと年金をコツコツ貯めてたみたいだよ。私も知らんかった」

と言う。

本気で泣いた。

お金があるのに汚い服ばかり着ている意味や、さっき俺の部屋で喋ったことを思い出し、思い切り泣いた。

もう、本当に頑張るから。

今は肩を揉むことくらいしか出来ないけど、絶対に大学合格するから。

関連記事

親子(フリー写真)

父と過ごした日々

2年前、父を癌で亡くしました。 癌が発覚したのはその3年前。風邪が治らないと病院に通い、それでも治らず精密検査をしたら肺癌が見つかりました。しかもリンパにも転移していました。 …

カーネーション(フリー写真)

親心

もう5年も前の話かな。 人前では殆ど泣いたことのない俺が、生涯で一番泣いたのはお袋が死んだ時だった。 お袋は元々ちょっと頭が弱く、よく家族を困らせていた。 思春期の…

お弁当(フリー写真)

母ちゃんの弁当

中学1年生くらいの時は反抗期で、ちょっとツッパっていたりした。 「親の作った弁当なんかダサくて食えるか。金よこせよ、コンビニで買うから!」 と母ちゃんに言ったことがあってさ…

虹(フリー写真)

自分らしく生きる言葉

嫌いな人を憎むより、大好きな人を愛したい。 悪い噂話をするより、嬉しいことや楽しいことを話したい。 そのような時間を多くして生きたい。 大切な時間を大切に。大切な人…

夕方の教室(フリー背景素材)

校長先生の名授業

私が考える教育の究極の目的は『親に感謝、親を大切にする』です。 高校生の多くは、今まで自分一人の力で生きて来たように思っている。 親が苦労して育ててくれたことを知らないんで…

ケーキカット(フリー写真)

思い出のスプーン

私は不妊治療の末にようやく産まれた子供だったそうです。 幼い頃から本当に可愛がられて育ちました。 もちろんただ甘やかすだけではなく、叱られることもありました。 でも常…

沖縄のビーチ(フリー写真)

母の唯一のワガママ

「沖縄に行かない?」 いきなり母が電話で聞いて来た。 当時は大学三年生で、就活で大変な時期だったため、 「忙しいから駄目」 と言ったのだが、母はなかなか諦めない…

カップル

余命と永遠の誓い

彼は肺がんで入院し、余命宣告されていました。 本人は退院後の仕事の予定を立て、これからの人生に気力を振り絞っていました。 私と彼は半同棲状態で、彼はバツイチで大分年上だっ…

お手玉(フリー写真)

私のこと忘れないでね

遠い昔、私が小学4年生の頃の話です。 当時の僕は人見知りで臆病で、積極的に話しかけたりするのが出来ない性格でした。 休み時間、みんなは外に出て遊んでいても、僕は教室の椅子…

卵焼き(フリー写真)

親父の弁当を捨てた

小学1年生の秋に、母親が男を作って家を出て行き、俺は親父の飯で育てられた。 当時は親父の下手な料理が嫌で堪らず、また母親が突然居なくなった寂しさも相まって、俺は飯の度に癇癪を起こ…