一生忘れない結婚式

結婚式(フリー写真)

本人から聞いたのか共通の友人から聞いたのかあやふやだけど、その子は物心付く前にお母さんが亡くなって、父親に育てられたという話は耳にした事があった。

結婚式後に聞いた話だけど、何かの映画か小説かであった、余命を知った母親がまだ小さな子供のためにビデオメッセージを残すというような事を、その子の母親もやっていたそうだ。

と言っても何百本も制作したという訳ではなく、絵本を読み聞かせるビデオや、小学校卒業までの毎年の誕生日メッセージくらいだったらしい。

その中に一つ、

「娘が結婚したら一緒に見て」

と父親が渡されていたビデオがあったそうだ。

思い出すと辛いのか、友人の父親はあまりビデオを見たがらなかった。

でも祝福してくれるみんなとなら…という事で、結婚式でそのビデオが流れる事になった。

二人もそのビデオを見るのは初めてだったそうだ。

そんな説明を少し司会者がしていたものの、旧友との話に花が咲き、お酒も入って軽く聞き流していたところでビデオが流れ始めた。

自分と変わらないくらいの年の綺麗な女性が映り、

「○○ちゃんおめでとー!」

とクラッカーをパーンと鳴らす。

「○○ちゃんは何歳で結婚したんだろう? きっとママに似た素敵な女性になってるんだろうねー」

と、アットホームなホームビデオという感じで、ほのぼのとした映像が流れる。

時折冗談を交えて、しんみりする雰囲気ではなく、新婦も招待された人達も笑顔で見ていた。

5分くらいメッセージが続き、ビデオの中の女性は言葉を探すようになり、そろそろ終わりかなと思った頃、

「あと…」

と少し間が空いて、

「最後に、○○君(新婦の父親)、○○ちゃんを立派にお嫁に出してくれてありがとう」

娘に宛てたメッセージとはまた違う、凄く優しい笑顔になって、メッセージは続く。

「○○君の事を愛してます。

きっと、お腹が出ちゃってる○○君を、もしかすると頭が寂しくなってるかもしれない○○君を、今でも愛してます。

いつかおじいちゃんになる○○君も、ずっと愛してます」

少し俯いた後、照れくさそうな顔をして画面に手を伸ばす女性が映り、ビデオは終わった。

ほのぼのとした雰囲気だったのが一変、式場は静まり返って、みんなプルプルし始める。

そんな中、堪えきれなくなったのだろう。突然、新婦の父がテーブルに突っ伏し、口を手で塞いで嗚咽を漏らし始めた。

新婦も涙で顔をくしゃくしゃにして駆け寄り、突っ伏した父親を抱き締めて大号泣。

つられて殆ど全員と言って良いくらいの女性客が泣き始め、男性客も涙を堪えるのに必死。

妙な雰囲気に子供が大声で泣き出し、まるで葬式のクライマックスみたいなカオスな状況に(笑)。

そんな状況をまずいと思ったのか、司会者が

「本当に素敵なメッセージでしたー。引き続きお食事をお楽しみくださーい」

と〆にかかる。

暫くお通夜状態だったものの、徐々に平穏を取り戻し、ようやく元の結婚式らしい雰囲気に戻ったところで新婦父の挨拶になった。

新婦の父は明るいガテン系という感じで、あまり人前で泣くようなキャラではないのだろう。失態を見せてしまったと思ったのか、妙にテンションの高いスピーチを始める。

最後は、

「私も○○(新婦母)を愛してまーす!」

と新日の棚橋パフォーマンス(知らない人ごめんなさい)で若干会場を引かせたものの、照れ隠しに無理してそう振る舞っているのをみんな解っていた。

そして何とも言えない、良い雰囲気で式は終わった。

ずっと鳴り止まない拍手と、新婦より幸せそうな新婦父が印象的だった。

色々あってちょっと疲れたけど、この結婚式は一生忘れないと思う。

関連記事

花

未読のメッセージ

青春の嵐が吹き荒れる中学三年生の春、突然の母の病気の診断を受け入れることができませんでした。 試験と部活動に明け暮れる日々に追われ、未来への不安と金銭的な心配に頭がいっぱいでし…

朝焼け(フリー写真)

天国の祖父へ

大正生まれの祖父は、妻である祖母が認知症になってもたった一人で介護をし、祖母が亡くなって暫くは一人で暮らしていた。 私が12歳の時に、祖父は我が家で同居することになった。 …

絵馬(フリー写真)

絵馬に書かれた願い

この前、近くの神社まで散歩したんだ。 絵馬が沢山あって、 『あまり良い趣味じゃないな』 と思いながらも、他人の色々な願い事を見ていたんだ。 「大学に合格しますよ…

リビング

弟の物語が変えた家族

私の家族は、父、母、私、そして弟の四人家族です。弟は私より十二歳も年下で、その当時はまだ六歳でした。とても可愛い弟です。しかし、私は遊び盛りで、家にいれば父と母が喧嘩をしていることが…

猫(フリー写真)

鳴かない猫

昔話だけど。 実家の猫は赤ちゃんの時、空き地で目も潰れて放置され、泣き喚いていたところを保護したんだ。 正直、化け猫のようで触るのも躊躇するほどの悲惨さだった。 目は…

クリスマスツリー

サンタさんへ ― 6歳の願いごと

クリスマスの数日前、6歳の娘が、欲しいものを手紙に書いて窓際に置いていました。 ピンクのキティちゃんの便箋が、丁寧に折りたたまれていて。 「何が欲しいのかなぁ」と、私と夫…

Wii(フリー写真)

ゲーム好きな友人

俺の友達に、凄くゲーム好きなやつがいたんだよ。 ドラクエなどのゲームを誰よりも先に解いたり、俺たちにヒントをくれたりさ。 でも中学2年生の時にそいつは事故に遭い、右手を失く…

野球ボール(フリー写真)

父と息子のキャッチボール

私の父は高校の時、野球部の投手として甲子園を目指したそうです。 「地区大会の決勝で9回に逆転され、あと一歩のところで甲子園に出ることができなかった」 と、小さい頃によく聞か…

母の愛

義母がくれた、ほんとうの愛

俺が六歳のとき、親父が再婚して、新しい母親がやってきた。 「今日からこの人がお前のお母さんだ」 そう言って紹介された女性は、優しく微笑んでいた。 家族とか血のつなが…

家族の手(フリー写真)

幸せな家族

私は長女が3歳になった時に長男を出産した。 長男が生まれるまで、私と長女は殆どずっと一緒に居た。 夫が居ない平日の昼間は、二人だけの時間だった。 でも子供が二人になる…