兄ちゃんはヒーローだった

公開日: ちょっと切ない話 | 兄弟姉妹

アスレチックで遊ぶ双子(フリー写真)

兄ちゃんは、俺が腹が減ったと泣けば、弁当や菓子パンを食わせてくれた。

電気が点かない真っ暗な夜は、ずっと歌を唄って励ましてくれた。

寒くて凍えていれば、ありったけの毛布や服を被せてくれた。

何人もの男が怒号を上げて部屋に入って来た時は、押し入れに隠して庇ってくれた。

兄ちゃんは俺の神様で、ヒーローだった。

いつだって体を張って、俺を守ってくれていた。

例え二人きりでも、いつだって安心出来た。

だから全然気付かなかった。

ごめんなさい。

ごめんなさい。

俺に食わせるために毎日、万引きしていたんだってな。

父ちゃんと母ちゃんがお金を送ってくれたとか、全部嘘だったんだな。

二人とも借金でどうしようもなくなった挙句、俺たちを置き去りにして消えちゃって…。

でも借金取りの追跡が怖くて、

「すぐに帰って来るから、居ないことは誰にも言うな」

なんて言い残したものだから、兄ちゃん、誰にも助けを求められなかったんだってな。

泣き喚く俺を抱えて、どんなに怖かったか、不安だったか。

だけど見捨てもせず、怒りもせず、最後まで面倒を見てくれたんだな。

結局、兄ちゃんは万引きで捕まって、家に警察が来た。

呼び出された親戚は兄ちゃんを怒った。

でも、例え褒められた方法じゃなくても、親との約束を守り、俺を守った兄ちゃんは格好良かったと今でも思っている。

それから一週間くらい後だったかな。

兄ちゃんが父方、俺が母方の親戚に引き取られた日が、兄ちゃんを見た最後だった。

今、どこに居るんだよ。

元気でやっているのか。

会いたいよ。会ってありがとうと言いたいよ。

大好きだって言いたいよ。

普通の兄弟みたいに遊んだり、喧嘩したりしたいよ。

あの頃は大変だったな、なんて格好つけて語る兄貴の武勇伝を聞いて笑いたいよ。

いつか会えるよな、絶対。

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