弟のマフラーが届かなかった冬
毎年十二月に届いていた弟からの手編みマフラー。今年は届かなかった。看護師の姉が遺品整理で見つけた手紙に、弟が三年間黙っていた理由が綴られていた——切なくも温かい…
毎年十二月に届いていた弟からの手編みマフラー。今年は届かなかった。看護師の姉が遺品整理で見つけた手紙に、弟が三年間黙っていた理由が綴られていた——切なくも温かい…
祖母の遺品整理中に見つかった古い菓子缶。中には三十年分の絵はがきが。全部、私の名前が書かれていた。切手は一枚も貼られていなかった。…
古書店主の増田は、口うるさかった恩師の万年筆のキャップに隠された手紙を見つける。そこには一度も口にしなかった言葉が、静かに記されていた。…
郵便局員の父が、五年前から預けていた手紙。そこに書かれていたのは、不器用な父が一度も言葉にできなかった誇りと愛情だった。…
妻を亡くした父が、お通夜の夜にひとり綴った一通の手紙です。残された高校生の娘が、亡き妻とそっくりの声で口にした六文字とは何だったのか。家族の合言葉が静かに受け継…
母が遺したのは、ひらがなだけの短い手紙でした。押入れの箱の底から出てきた十九枚の書き損じと、右手の親指だけが少し太い七組の手袋。手袋の町で育った私が、二十八年目…
祖母は六十年、毎朝仏壇に向かって貴様と呼びかけていました。悪態だと思っていたその一語の意味が、北満の守備隊にいた祖父の残した一枚の薬包紙と最後の軍事郵便で反転し…
淡路の線香屋のもとへ、五年も遅れて亡き妻からの手紙が届きました。同封されていた細い紙は、五年経ってもまだ匂ったのです。なぜ五年だったのか。香りの長さに託された約…
五十年のあいだ、薬を一粒も飲まずに逝った銭湯の祖父。葬儀のあと、常連の理髪師が届けてくれた手紙には、生まれたばかりの私の命と引き換えに立てた誓いが綴られていまし…
山の観測所に勤めるあなたは、秋の沢の鉄砲水から私を庇って逝きました。所長さんの手に握られていた桜の櫛、遺された双子、観測野帳の余白に残された小さな言葉、今も続く…
海の見える坂の町の活版印刷所で、わたしと志乃と省吾は出会いました。志乃が昏睡に落ちる前の晩、一人きりで組んでいたのは、自分自身の言葉でした。彼女が遺した最後の版…
十七歳の誕生日に、育ての母だと知らされた私は、母を「おばさん」と呼び、差し出された手紙さえ、その場で丸めて捨ててしまいました。その翌日、母は突然この世を去ります…
雨の県道で運ばれてきた身元不明の女性。首のペンダントに入っていたのは、当直医である彼の幼い日の写真でした。三十年分の手紙と、一度も途切れなかった通帳が語る母の沈…
二十歳の誕生日、病床の父から手渡されたのは、亡き母が「父になる日のたくみへ」と綴った一通の手紙でした。母の願いと、父が黙って重ねた無数の犠牲。家族三人で過ごした…
夫は、息子の産声を聞けないまま、静かに逝きました。一歳の誕生日に郵便受けへ届いた、二通の手紙。雪深い和紙の里で紙を漉く妻のもとへ、亡き夫が遺した不器用な言葉が、…