
郵便局員をして十七年になる。
毎朝、配達バッグに積まれた郵便物を仕分けるとき、私はいつもあの日を思い出す。
父が死んで半年が経った冬のことだ。
同僚の田中さんが、一通の封筒を持ってきた。宛名は私の名前。差出人は、父だった。
「局に預けてたんだって。五年前に。ちゃんと届けてくれって頼んで」
田中さんは何も言わず、私の手にそっと置いた。
父は寡黙な人だった。
愛情表現が苦手で、誉め言葉を言ったためしがない。私が郵便局員になると告げた日も、「そうか」とだけ言って、新聞に視線を戻した。
ずっと、認めてもらえていないと思っていた。
封筒の中には、古い鍵と、一枚の便箋が入っていた。
丸みのある、見慣れた字で、こう書かれていた。
「お前が郵便局員になった日、おれはずっと自慢していた。誰にも言えなかったけれど、本当に誇らしかった。この鍵は、おれが初めて一人で配達を任された日に、局長からもらったものだ。お前に渡したかった」
窓の外で、雪が降っていた。
私は配達バッグを肩にかけ、いつもの道を歩いた。手の中に、小さな古い鍵を握りしめながら。
父は、郵便局員だったことを、私はそのとき初めて知った。