祖父の傷跡

公開日: 悲しい話 | 戦時中の話

従軍(フリー写真)

俺の爺さんは戦地で足を撃たれたらしい。

撤退命令が出て皆急いで撤退していたのだが、爺さんは歩けなかった。

隊長に、

「自分は歩けない。足手まといになるから置いて行って下さい」

と言うと、黙って何時間も背負って逃げてくれたらしい。

撤退場所に着いて応急手当が終わり、お礼を言おうと隊長を探すと、上官は再び出撃の準備をしていたらしい。

「ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」

と泣きながら言うと、隊長が

「お前は怪我をしているから日本に帰れる。俺は今から祖国の為に戦って来る。多分生きて日本には帰れないだろう」

と言った。爺さんは、

「自分もここに残ります」

と言いかけたところで、

「泣く事は無い。死ねば日本に帰れる。靖国で会おう」

と上官は言っていたらしい。

爺さんの足には酷い傷跡が残っていたのだが、その傷を見る度にその隊長を思い出すらしい。

爺さんはもう亡くなってしまったのだけど、亡くなる少し前に

「死んだら隊長に会える。やっときちんとお礼を言える。随分遅くなってしまった」

と呟いていたよ。

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