神戸からの少女

廃墟

2年前、旅行先の駐屯地祭での出来事です。

例によって、特定の市民団体が来場し、場の雰囲気が少し重たくなっていました。そのとき、女子高生と思しき一人の少女がその団体に向かって歩いて行きました。

少女は声を強くして問いかけました。「あんたら地元の人間か?」

団体のメンバーは「私たちは全国から集まった市民団体で…」と答えましたが、少女はさらに詰め寄りました。「で、何しに来たんや?」

団体が「憲法違反である自衛隊賛美に繋がる…」と答えると、少女は自分の胸元を指さして言いました。「私は神戸の人間や。はるばる電車に乗って何しにここまで来たか解るか?」

団体の人々が困惑していると、少女は続けました。「地震で埋もれた家族を助けてくれたのは、ここの部隊の人や。寒い中ご飯を作ってくれて、風呂も沸かしてくれて、夜は夜で槍を持ってパトロールしてくれたのも、ここの部隊の人や。私は、その人たちにお礼を言いに来たんや。あんたらに解るか?消防車が来ても通り過ぎるだけの絶望感が。でもここの人らは歩いて来てくれはったんや…」

最初は怒り気味に話し始めた少女の声は、次第に涙声に変わっていきました。彼女の言葉には、地元を守る自衛隊員への深い感謝が込められていました。

この出来事は非常に印象的で、今でもはっきりと覚えています。団体は撤退しました。

少女が門をくぐった時、守衛の方は彼女に社交辞令の軽い敬礼ではなく、直立不動のまま真剣な敬礼をしました。その一挙手一投足からも、彼女の言葉がどれほど真摯に受け止められたかが伝わってきました。

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