おばあちゃんと柴犬

公開日: ペット | 心温まる話 |

柴犬(フリー写真)

昔の話だが、近所に旦那さんに先立たれ、独り暮らしをしているお婆ちゃんが居た。

お婆ちゃんは室内で柴犬を飼っていた。

嫁いだ娘さんや孫たちがしょっちゅう様子を見に来ていたから、そう寂しくはなかったとは思うが、少し心臓を患っていて、親族には心配の種だったようだ。

ある日、お婆ちゃんの柴犬が窓ガラスに体当たりして、血塗れで道に走り出し、凄い勢いで吠えながら近所中を駆け巡ったそうだ。

近所の人は驚き、お婆ちゃんに何かあったのだろうかと思い駆け付けてみると、案の定、お婆ちゃんは心臓発作を起こしていて、台所で苦しみ悶えていた。

すぐに救急車を呼び、入院。そして手術。

その間、当時まだ若かった俺の爺ちゃんが柴犬を預かっていた関係で、この話は何度も聞かされたのだ。

お婆ちゃんはめでたく退院し、数年が経った。柴犬もすっかり年を取った。

ある日、お婆ちゃんの家の雨戸が昼になっても開かない事を心配し、隣家のおばさんがお婆ちゃんの娘さんに連絡。

娘さんが駆け付け、俺の爺ちゃんや近所の人が一緒に家に入ってみると、お婆ちゃんは既に寝床で冷たくなっていた。

苦しんだ痕は無く、死に顔は安らかだったという。

眠っている間に心臓が停まってしまったのだろう、との事だった。

枕元では、柴犬がお婆ちゃんに顔を寄せ、冷たくなっていた。

愛犬が主人と共に逝く話は割とよく聞くが、彼らは自分の死をコントロールできるのだろうか?

柴犬は年老いていたが、大事にされていて栄養状態も良かったから、まだまだ元気だったはずだと、俺の爺ちゃんは言っていた。

果たして、人間のように首を吊ったりなどではなく、蝋燭の火を吹き消すように自分の命を終える事が出来るのだろうか?

それが何とも不思議だ。

関連記事

景色

忘れないでね

嫁が激しい闘病生活の末、若くして亡くなった。その5年後、こんな手紙が届いた。どうやら死期が迫った頃、未来の俺に向けて書いたものみたいだ。 ※ Dear 未来の○○、元気で…

猫の寝顔(フリー写真)

猫が選んだ場所

物心ついた時からずっと一緒だった猫が病気になった。 いつものように私が名前を呼んでも、腕の中に飛び込んで来る元気も無くなり、お医者さんにも 「もう長くはない」 と告げ…

ラジオ

ラジオから伝わる愛

私が子供の頃から、近所に住むご夫婦に可愛がられて育ちました。その夫婦には子供がおらず、私は幼いころから特別な存在でした。 おじさんは土建屋の事務員で無口な人ですが、優しさに溢れ…

セイコーマート(フリー写真)

小さな子供達の友情

俺はセイコーマートで働いて三年目になる。 いつも買い物に来る小さな子の話を一つ。 その子は生まれつき目が見えないらしく、白い杖をついて母親と一緒に週二、三度うちの店を訪れる…

オフィス(フリー素材)

祖父の形をした幻

私の名前は中島洋二、会社員であり、幸せな家庭の父親です。 家族は妻と二人の子供、それから母親がいます。 しかし、私にとっての大切な家族の一人に、私の祖父がいます。 …

手を繋いで夕日を眺めるカップル(フリー写真)

ずっと並んで歩こうよ

交通事故に遭ってから左半身に少し麻痺が残り、日常生活に困るほどではないけれど、歩くとおかしいのがばれる。 付き合い始めの頃、それを気にして一歩下がるように歩いていた私に気付き、手…

トラ猫

背中のぬくもり

五年前に、我が家には一匹の茶トラ猫がいました。 当時、姉が家出同然に家を飛び出し、家の中の空気はひどく重く、どこか寂しげなものでした。 私はというと、そんな雰囲気を払拭し…

ラグビー場(フリー写真)

ラグビーと恩師

私は高校時代に万引きをして、人生観が変わりました。 中学から好きだった野球を続ける為に、有名な強豪校に希望して入りました。 しかしボールを触らせて貰えず、毎日ボール拾いばか…

丸まるキジトラ猫(フリー写真)

猫のたま

病弱な母がとても猫好きで、母が寝ているベッドの足元にはいつも猫が丸まっていた。 小さな頃は、母の側で寝られる猫が羨ましくて、私も猫を押し退けては母の足元で丸まっていた。 『…

おむすび(フリー写真)

母の意志

僕が看取った患者さんに、スキルス胃がんに罹った女性の方が居ました。 余命3ヶ月と診断され、彼女はある病院の緩和ケア病棟にやって来ました。 ある日、病室のベランダでお茶を飲み…