色褪せた家族写真

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 | 祖父母

ちゃぶ台(フリー写真)

一昨年、ばあちゃんが死んだ。

最後に会ったのは、俺が中学生の時だったかな。

葬式の為に20年越しで、ばあちゃんの住んでいた田舎に行った。

次の日、遺品の整理をする為に俺とお袋、それと叔父の三人で、もう誰も帰って来る事の無い家を訪れた。

じいちゃんは戦争でとっくに亡くなっていたし、ばあちゃんも亡くなる一年前から痴呆が始まり入院していた。

だから誰も住んでいなかったその家の中は、埃だらけだった。

それなのに、まるで昨日までここで生活していたかのような光景。

洗った食器がそのままの台所。

新聞が広げられたままの食卓。

部屋の隅に畳まれたままの布団。

そして小さな冊子が乗ったままの小さなちゃぶ台。

叔父がその冊子を手に取って、

「こんなものくらいしか楽しみが無かったんだなぁ」

と言い、声を上げるでもなく静かに涙を流していた。

近寄って覗いてみると、お袋と叔父の若かった頃の写真、それとまだ子供だった頃の俺の写真だった。

写真は指紋だらけで、カラーだったはずの写真は色褪せてセピア色になっていた。

ばあちゃんは足腰が立たなくなってから入院までの間、テレビもラジオも無いこの部屋の、このちゃぶ台で、俺達の昔の写真を眺めながら一人で何を想っていたのだろう。

そう思うと辛かったけど、何とか涙は堪えた。

ばあちゃん。

ばあちゃんには会いたいけど、もう少しだけ待って欲しい。

俺にはまだこの世にやり残している事があるんだ。俺はお袋が死ぬまで生きなきゃならない。

それが親不孝ばかりだった俺にも出来る、唯一の親孝行だからね。

関連記事

ナースステーション(フリー写真)

最強のセーブデータ

俺が小学生だった時の話。 ゲームボーイが流行っていた時期のことだ。 俺は車と軽く接触し、入院していた。 同じ病室には、ひろ兄という患者が居た。 ひろ兄は俺と積極…

手を繋ぐ母と娘(フリー写真)

最高のママ

もう十年も前の話。 妻が他界して一年が経った頃、当時八歳の娘と三歳の息子がいた。 妻がいなくなったことをまだ理解出来ないでいる息子に対し、私はどう接してやれば良いのか、父親…

浜辺の母娘(フリー写真)

天国へ持って行きたい記憶

『ワンダフルライフ』という映画を知っていますか? 自分が死んだ時にたった一つ、天国に持って行ける記憶を選ぶ、という内容の映画です。 高校生の頃にこの映画を観て、何の気無しに…

レトロなサイダー瓶(フリー写真)

子供時代の夏

大昔は、8月上旬は30℃を超えるのが夏だった。朝晩は涼しかった。 8月の下旬には、もう夕方の風が寂しくて秋の気配がした。 泥だらけになって遊びから帰って来ると、まず玄関に入…

バスの車内(フリー写真)

悪意と善意

10歳の息子がある病気を持っており車椅子生活で、更に投薬の副作用もあり一見ダルマのような体型。 知能レベルは年齢平均のため、尚更何かと辛い思いをして来ている。 ※ …

放課後の黒板(フリー写真)

好きという気持ち

中学1年生の時、仲の良かったO君という男の子が居た。 漫画やCDを貸しっこしたり、放課後一緒に勉強したり、土日も二人で図書館などで会ったりしていた。 中学2年生になる前に、…

手を組む女性(フリー写真)

恋人からの手紙

昨日、恋人が死んじゃったんです。病気で。 そしたらなんか通夜が終わって、病院に置いて来た荷物とか改めて取りに行ったら、その荷物の中に俺宛ての手紙が入ってたんです。 で、よく…

雨

雨の中の青年

20年前、私が団地に住んでいた頃のことです。ある晩、会社から帰宅すると、団地前の公園で一人の男の子が、雨の中傘もささず、向かいの団地をじっと見つめていました。その様子は不気味で、見て…

家族の手(フリー写真)

幸せな家族

私は長女が3歳になった時に長男を出産した。 長男が生まれるまで、私と長女は殆どずっと一緒に居た。 夫が居ない平日の昼間は、二人だけの時間だった。 でも子供が二人になる…

老人の手を握る(フリー写真)

祖父の気持ち

まだ幼い頃、祖父を慕っていた私はよく一緒に寝ていました。 私は祖父のことをとても慕っていたし、祖父にとっては初孫ということもあって、よく可愛がってくれていました。 小学校…