コロの思い出

公開日: ちょっと切ない話 | ペット |

犬(フリー写真)

うちにはコロという名前の雑種の犬が居ました。

白色と茶色の長い毛がふわふわしている犬でした。

私が学生の頃は学校から帰って来る時間になると毎日、通学路が見える場所に座り、遠くから歩いて来る私を待っていてくれる利口な犬でした。

それから10年程経ち、家族は引っ越さなければならなくなりました。

それは庭の狭い小さな家でしたが、もちろんコロも一緒です。

しかし遊ぶ庭が無く、17才という年齢もあって、引っ越してから間も無くしてコロは足腰が弱り、歩けなくなってしまいました。

次第に目も白内障になり、耳も遠くなりました。

そして人間の認知症と同じでしょうか、朝晩の区別が付かず、夜中に大声で吠えるようになりました。

狭い住宅地では苦情が来た事も一度や二度ではありませんでした。

しかし外でしか生活した事のない犬を、狭い借家に上げる訳にも行かず、どうする事も出来ませんでした。

それから半年後の寒い冬の日、コロはひっそりと息を引き取りました。18才の誕生日目前でした。

色々な気持ちが入り交じって、涙が止まりませんでした。

翌日焼き場へ行きお焼香をし、最後のお別れをして火葬の厚いドアが閉められた時、目に浮かんだのは、帰りを待っていてくれたあの姿。

待ち遠しくソワソワし、一点を見つめていたあの姿。そして急ぎ足で帰った通学路。

コロ、心からありがとう。安らかに。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

note版では広告が表示されず、長編や特選記事を快適にお読みいただけます。
さらに初月無料の定期購読マガジン(月額500円)もご用意しており、読み応えあるエピソードをまとめて楽しむことができます。

泣ける話・感動の実話まとめ - ラクリマ | note

最新情報は ラクリマ公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

水溜り

最後の仲直り

金持ちで、顔もそこそこ。 何より、明るくてツッコミが抜群に上手い男だった。ボケた方が「俺、笑いの才能あるんじゃね」と勘違いしてしまうくらい、絶妙なツッコミを入れてくる。 …

海

あの日の下り坂

夏休みのある日、友達と「自転車でどこまで行けるか」を試すために小旅行に出かけた。地図も計画もお金も持たず、ただひたすら国道を進んでいった。 途中に大きな下り坂が現れ、自転車はま…

着物姿の女性

一度きりの恋

俺が惚れた子の話をします。 俺はもう、40歳手前の独身男です。 もう5年近く、彼女もいません。 ※ そんな俺が、去年の5月ごろに友人に誘われ、なんとなくゴルフ…

赤ちゃんの足を持つ手(フリー写真)

ママの最後の魔法

サキちゃんのママは重い病気と闘っていたが、死期を悟ってパパを枕元に呼んだ。 その時、サキちゃんはまだ2歳だった。 「あなた、サキのためにビデオを3本残します。 このビ…

赤ちゃん

奇跡のメッセージ

結婚して五年目、ようやく待ちに待った子どもが生まれた。 抱きしめた瞬間、涙があふれ、世界で一番の宝物だと思った。 二年が経ち、子どもに障害があることが判明した。 目…

昼寝中の猫(フリー写真)

ずうずうしい野良猫

お悩み相談 Q. 通って来る野良猫が大変ずうずうしく、困っています。 始めは家の外でみゃーみゃー鳴いて飯をねだる程度だったのですが、この寒空の下では辛かろうと一度玄関に泊め…

カップルの後ろ姿

彼がくれた最期の「ありがとう」

あれは、今から一年半前。大学3年になったばかりの春のことでした。 授業が終わり、帰り支度をしていると、携帯が鳴りました。 画面に表示されたのは、彼の親友からの着信。「珍し…

バー(フリー写真)

大好きな姉

20歳を迎えたその日、姉が雰囲気の良いショットバーに連れて行ってくれた。 初めてのバーに圧倒されている俺を見て、姉は 「緊張してんの? 何か子供の頃のアンタみたい」 …

手を握る(フリー写真)

仲直り

金持ちで顔もまあまあ。 何より明るくて突っ込みが上手く、ボケた方が 「俺、笑いの才能あるんじゃね」 と勘違いするほど(笑)。 彼の周りには常に笑いが絶えなかった…

学校(フリー背景素材)

たくちゃん

その人は一個上の先輩で、同級生や後輩からも『たくちゃん』と呼ばれていた。 初めて話したのは小学校の運動会の時。 俺の小学校は、全学年ごちゃ混ぜで行われる。俺は青組みだった。…