メロンカップの盃

手を繋ぐ友人同士(フリー写真)

小学6年生の時の事。

親友と一緒に先生の資料整理の手伝いをしていた時、親友が

「あっ」

と小さく叫んだのでそちらを見たら、名簿の私の名前の後ろに『養女』と書いてあった。

その時まで実の両親だと思っていたので、心の底から衝撃を受けた。

帰り道、どんな顔で家に帰って良いか分からず、私は公園のブランコに座ったまま立てなくなっていた。

親友はずっと付き添ってくれて、

「よし、じゃあ私と姉妹の盃を交そう」

と言い、カバンからメロンアイスの容器(メロンの形のやつ)を取り出し、水道の水を汲んで飲んだ。

一体何のテレビを見たのか、

「盃の契りは、血の繋がりより強いんだよっ」

なんてメロンのカップ片手に言う親友がおかしくて、思わず泣きながら笑い合った。

十数年経って私が結婚する事になり、結婚直前に二人でお酒を飲む事にした。

『あの時はありがとう』と言って驚かせようと思い、あの時に貰ったメロンのカップをカバンにこっそり忍ばせて飲んでいたら、突然親友がポロポロ泣き出して

「あの時、あの時、気付かせてしまってごめんね」

と言った。『養女』の文字を隠さなかった事を、ずっとずっと悔やんでいたと泣いた。

そんな事、反抗期に親に反発しそうな時も、進学の学費面で親に言えなくて悩んだ時も、机の上でメロンのカップが見守っていてくれたから、あなたが居てくれたからやって来られたんだと伝えたかったのに…。

ダーダー涙を流しながら、ドラえもんのようなだみ声で

「ごれ゛ぇ~」

とメロンのカップを出すしか出来なかった。

親友もダーダー涙を流しながら、

「あ゛~ぞれ゛ぇ!」

と言い、お互い笑って泣いて、酒を酌んだ。

もちろんメロンのカップで。

もうすぐ親友の結婚式があるので思い出した。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

泣ける話・感動の実話まとめ - ラクリマ | note

最新情報は ラクリマ公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

教室の風景(フリー写真)

変わらぬ優しい笑顔

酷い虐めだった。 胃潰瘍ができるほど、毎日毎日、恐怖が続いた。 今もそのトラウマが残っている。 僕がボクシングを始めた理由。それは、中学生の時の虐めだ。 相手…

家族の手(フリー写真)

いつかの日曜日

私が4歳の時、父と母は離婚した。 当時は祖父母と同居していたため、父が私を引き取った。 母は出て行く日に私を実家へ連れて行った。 家具や荷物が沢山置いてあって、叔母の…

婚約指輪(フリー写真)

例外の入籍手続き

彼は肺がんで入院していて、余命宣告されていました。 本人は退院後の仕事の予定も入れ、これからの人生に気力を振り絞っていました。 私と彼は半同棲状態、彼はバツイチ、そして大分…

電車内から見る駅のホーム(フリー写真)

おとうさんという言葉

その日は約束の時間ぎりぎりに、舞浜駅のホームから階段を降りた。 雑踏の中には元妻と、ミニリュックを背負った小学3年生の息子が待っていた。 半年ほど見ない間に一回り大きくなっ…

田舎の風景(フリー写真)

せめて届かないだろうか

葬式、行けなくてゴメン。 マジでゴメン。 行かなかったことに言い訳できないけどさ、せめてものお詫びに、お前んちの裏の山に登って来たんだ。 工事用の岩の間に作った基地さ…

公園と夕暮れ(フリー写真)

大好きな芸人

芸人の江頭さんがとある公園でロケをしていると、公園の隣にある病院から抜け出して来ていた車椅子の女の子がそのロケを見ていた。 ロケが終わり、その車椅子の女の子は江頭さんに 「…

観覧車

再会のディズニーランド

その日は約束の時間ぎりぎりに、舞浜駅のホームから階段を駆け下りた。 雑踏の中で待っていたのは、元妻とミニリュックを背負った小学3年生の息子だった。 半年ぶりに会う息子は、…

満員電車(フリー写真)

子供を大切に

父が高校生の時に、僕の祖父が死んだ。 事故だった。 あまりの唐突な出来事で我が家は途方に暮れたらしい。 そして父は高校を卒業し、地元で有名な畜産会社に入社した。 …

時計台

約束の午後五時

僕の友達が、事故で亡くなった。 本当に突然の出来事で、何が何だか理解できず、涙すら出なかった。 葬式には、クラスの仲間やたくさんの友達が集まっていた。 遺影の中の彼…

猫(フリー写真)

愛猫との別れ

私がまだ高校生の冬、家で飼っている猫が赤ちゃんを産みました。しかも電気毛布を敷いた私の布団で。 五匹も産んだのですが、次々と飼い主が決まり、とうとう一匹だけになりました。 …