飼い猫の最後の別れ

公開日: ちょっと切ない話 | ペット |

寝ている猫(フリー写真)

10年以上前、ひょんな切っ掛けで、捨てられたらしいスコティッシュの白猫を飼う事になった。

でもその猫の首には大きな癌があり、猫エイズも発症していて、

「もうあと一ヶ月ぐらいしか生きられないと思うので、最後の思い出に可愛がってあげて」

と獣医さんに言われてしまう状態だった。

病気のせいか元々の性格なのか、殆ど鳴きもせず、気が付くと隣にひっそり座っている。

じーっとこちらを見つめてくるので、撫でてやると静かにゴロゴロ言う。

捨てられてからの生活を思うと不憫で、夫と二人でできるだけ可愛がってあげた。

飼い始めて5週間目に入ったある日の早朝、5時過ぎ。

その猫が私たちのベッドにやって来て、何かに取りつかれたようにいきなり、寝ている夫と私に激しくスリスリし始めた。

そんなこと一度も無かったのに。

寝ぼけていたし、時間も時間なので、

「ちょっとー、やめてよー、どうしたのー?」

と、ベッドから降ろしても降ろしても、いつまで経っても止めようとしない。

「急にどうしちゃったんだろうね」

と二人で話していた。

その日から猫はご飯を食べなくなった。

そして夜に首の癌が破裂して大量の膿が流れ出し、意識が失くなって、3日後に死んでしまった。獣医さんの診断は正しかった。

偶然と言ってしまえばそれまでだけど、今でもあの時のスリスリは、

「もう逝くからね、世話になったね、ありがとう」

という彼の挨拶だったと勝手に思っている。

もっともっと、気が済むまでスリスリさせてあげれば良かった。今でも後悔している。

彼のまん丸でちょっと悲しそうな、あの目が忘れられない。

猫は恩を忘れるなんて、絶対に嘘だと思った。

浜辺を走る親子(フリー写真)

両親は大切に

人前では殆ど泣いたことのない俺が、生涯で一番泣いたのはお袋が死んだ時だった。 お袋は元々ちょっと頭が弱くて、よく家族を困らせていた。 思春期の俺は、普通とは違う母親がむかつ…

眠る犬(フリー写真)

飼い犬との別れ

今年の元旦の事だった。 僕の実家にはKという犬が居た。 Kは僕が大学の頃に飼い始めて、かれこれ14年。 飼い始めの頃はまだちっちゃくて、公園に散歩に連れて行っても、懸…

キジトラ猫(フリー写真)

本当に幸運な猫

私は長らく務めた泉南市役所を退職した後、令和3年4月から泉南市りんくう体育館の管理人として勤めていました。 その時のお話をさせていただきます。 ※ まだ勤め始めで戸…

夫婦の重ねる手(フリー写真)

妻からの初メール

不倫していた。 4年間も妻を裏切り続けていた。 ネットで出会った彼女。 最初は軽い気持ちで逢い、次第にお互いの身体に溺れて行った。 ずる賢く立ち回ったこともあり…

子供の手(フリー写真)

嫁の手

うちの3才の娘は難聴。殆ど聞こえない。 その事実を知らされた時は嫁と泣いた。何度も泣いた。 難聴と知らされた日から、娘が今までとは違う生き物に見えた。 嫁は自分を責め…

野良猫(フリー写真)

猫の痰助

11年前の2月、何も無い湖の駐車場に彼女と居ると、ガリガリの猫が寄って来た。 よろよろと俺たちの前に来ると、ペタンと地面に腹をつけて座った。 動物に無関心だった俺は『キタね…

花を持つ女性(フリー写真)

彼女の嘘

あなたは本当に俺を困らせてくれたよね。 あなたと付き合った日。 朝のバスでいきなり大声で、 「付き合ってください!」 そんな大声で言われても困るし。 と言…

家の居間(フリー写真)

妹を守る兄

兄が6歳、私が2歳の頃に両親が離婚した。 私にその当時の記憶は殆ど無く、お父さんが居ないことを気にした覚えもありませんでした。 小学生に上がる頃に母が再婚し、義理の父が本当…

ろうそくの火(フリー写真)

ろうそくの火と墓守

急な坂をふうふう息を吐きながら登り、家族のお墓に着く。 風が強いんだ、今日は。 春の日差しに汗ばみながら枯れた花を除去して、生えた雑草を取り、墓石を綺麗に拭く。 狭い…

飲食店の席(フリー写真)

ファミレスの父娘

ファミレスで一人ご飯を食べていたら、前のテーブルからおっさんと女子高生の会話が聞こえて来た。 おっさんはスーツ姿で普通の中年。痩せていて、東幹久さんに似た雰囲気。会話の流れから父…