飼い猫の最後の別れ
10年以上前、ひょんな切っ掛けで、捨てられたらしいスコティッシュの白猫を飼う事になった。
でもその猫の首には大きな癌があり、猫エイズも発症していて、
「もうあと一ヶ月ぐらいしか生きられないと思うので、最後の思い出に可愛がってあげて」
と獣医さんに言われてしまう状態だった。
病気のせいか元々の性格なのか、殆ど鳴きもせず、気が付くと隣にひっそり座っている。
じーっとこちらを見つめてくるので、撫でてやると静かにゴロゴロ言う。
捨てられてからの生活を思うと不憫で、夫と二人でできるだけ可愛がってあげた。
※
飼い始めて5週間目に入ったある日の早朝、5時過ぎ。
その猫が私たちのベッドにやって来て、何かに取りつかれたようにいきなり、寝ている夫と私に激しくスリスリし始めた。
そんなこと一度も無かったのに。
寝ぼけていたし、時間も時間なので、
「ちょっとー、やめてよー、どうしたのー?」
と、ベッドから降ろしても降ろしても、いつまで経っても止めようとしない。
「急にどうしちゃったんだろうね」
と二人で話していた。
その日から猫はご飯を食べなくなった。
そして夜に首の癌が破裂して大量の膿が流れ出し、意識が失くなって、3日後に死んでしまった。獣医さんの診断は正しかった。
※
偶然と言ってしまえばそれまでだけど、今でもあの時のスリスリは、
「もう逝くからね、世話になったね、ありがとう」
という彼の挨拶だったと勝手に思っている。
もっともっと、気が済むまでスリスリさせてあげれば良かった。今でも後悔している。
彼のまん丸でちょっと悲しそうな、あの目が忘れられない。
猫は恩を忘れるなんて、絶対に嘘だと思った。