愛の形

公開日: ペット | 悲しい話 |

ポメラニアン(フリー写真)

私はあるペットクリニックに勤めています。

そこで起こった悲しい出来事をお話します。

40代くらいの男性がポメラニアンを連れてよく来ていました。

その人が購入したペットショップの提携の獣医師が私の病院の先生だったという縁で、紹介の形でワクチン接種などに来ていました。

でも、その人は態度があまり良くないため、そのクリニックでは評判が良くありませんでした。

色々と細かい点に注文を付けてきました。

「注射の仕方が雑だ」とか「診察台が高過ぎる」などです。

その男性が来るようになって6年ほど経過した頃でしょうか。

最近、愛犬のポメラニアンの体調が良くないとのこと。

先生が検査をしたところ、内臓に大きな腫瘍が出来ていました。

癌が転移しており、手術も出来ない状態となっていました。

獣医師の先生は、その人に「もう手の施しようがありません」と伝えました。

すると、

「このやぶ医者!病気も治せないのか!」

と言い放ち、犬を連れてそのまま出て行ってしまいました。

皆で「何あの人!」とか「いつものことか」など話をしていました。

私はふと、待合室に一つのポーチがあることに気付きました。

あのポメラニアンの飼い主が忘れたものでした。

私は急いでまだ近くに居るはずの飼い主に届けようと、ポーチを持ってクリニックを飛び出しました。

そこで見たものは、駐車場に停めた車の中で愛犬のポメラニアンを抱え、涙をボロボロと流す飼い主の男性。

私は声をかけることをやめて、そのままクリニックに戻って来ました。

他の人には「もう帰ってしまった」と伝えました。

そして、そのポーチの中を開けてみると、最初の診察の時からの領収書などが綺麗に整理された状態で全て入っていました。

その瞬間、その男性が如何に、愛犬を愛していたのかが解りました。

その男性がクリニックに足を運ぶことは二度とありませんでした。

関連記事

カップル

君と一緒に過ごせた日々

昨日、僕の恋人が亡くなりました。 長い病気の末、彼女はこの世を去りました。通夜が終わり、残された荷物を病院から持ち帰ることになりました。その荷物の中に、彼女が書いたと思われる手…

手を繋ぎ歩く子供(フリー写真)

身近な人を大切に

3歳ぐらいの時から毎日のように遊んでくれた、一個上のお兄ちゃんが居た。 成績優秀でスポーツ万能。しかも超優しい。 一人っ子の俺にとっては、本当にお兄ちゃんみたいな存在だった…

桜の木(フリー写真)

トムの桜

小学校の頃、クラスの友人が手から血を流していたので、ティッシュを渡してあげた。 「どうしたんだ?」 と聞いたところ、ムカつく猫が居たので捕まえて、水の入ったポリバケツに放り…

瓦礫

災害の中での希望と絶望

東日本大震災が発生した。 辺りは想像を絶する光景に変わっていた。鳥居のように積み重なった車、田んぼに浮かぶ漁船。一階部分は瓦礫で隙間なく埋め尽くされ、道路さえまともに走れない状…

夕日が見える町並み(フリー写真)

幸せだった日常

嫁と娘が一ヶ月前に死んだ。 交通事故で大破。 単独でした。 知らせを受けた時、出張先でしかも場所が根室だったから、帰るのに一苦労だった。 でもどうやって帰ったの…

女の子の後ろ姿

再生の誓い

私が結婚したのは、20歳の若さでした。新妻は僕より一つ年上で、21歳。学生同士の、あふれる希望を抱えた結婚でした。 私たちは、質素ながらも幸せに満ちた日々を過ごしていましたが、…

猫の寝顔(フリー写真)

猫が選んだ場所

物心ついた時からずっと一緒だった猫が病気になった。 いつものように私が名前を呼んでも、腕の中に飛び込んで来る元気も無くなり、お医者さんにも 「もう長くはない」 と告げ…

手作りハンバーグ(フリー写真)

最後の味

私が8歳で、弟が5歳の頃の話です。 当時、母が病気で入院してしまい、父が単身赴任中であることから、私達は父方の祖母の家に預けられていました。 母や私達を嫌っていた祖母は、…

沖縄の夕暮れ(フリー写真)

立派な将校さん

戦時中の沖縄での事です。 当時12歳だった叔父さんは、自然の洞穴を利用して作られた壕の中に居た。 他の住民や、部隊からはぐれた大怪我を負った兵隊たちも隠れていた。 息…

三毛猫(フリー写真)

幸せな猫の一生

僕はご主人様に拾われました。 毎日、おいしいご飯をくれました。 外で汚れたら、お風呂で洗ってくれました。 いつもいっぱい遊んでくれました。 たまにイタズラして怒…