親孝行したい時に

公開日: 家族 | 悲しい話 |

日記帳(フリー写真)

高校を卒業してから4年間、何もせずに家でお金を使うことしかしていなかった。

オンラインゲームをしたりゲームを買ったり。偶に親に怒鳴り散らしたりもした。

そんな駄目な俺が2年くらい前に、カーチャンスレを見てから必死でバイトと勉強を始めた。

そしてようやくCMにも出ているような大手企業に就職できた。

本当に嬉しかったよ。

やっと親孝行が出来ると思った。

去年、ある程度お金が貯まったから旅行に連れて行こうと思って、内緒で旅行を予約した。

定番だけど温泉ね。出発の一ヶ月前に家に帰って発表したら、

「ありがとう……本当にありがとう……」

と、涙を流しながら喜んでくれたんだ。

この為にお金を貯めたんだと思うほど嬉しかった。

母さんはそれを近所に自慢していて、近所のおばちゃんから帰省の時に言われた時は恥ずかしかった(笑)。

出発の3日前になって電話が掛かって来た。

でも仕事中だから電話に出られず、その時は無視していた。

後でかけ直したら親父が出てさ、

「旅行は中止だ……」

と涙声で言う。訳が解らなくて、

「何でだよ? 風邪でもひいたの?」

と聞き返したんだ。そしたら、

「母さんが……轢き逃げされて……それで……」

頭が真っ白になって、その後はよく覚えていない。

気が付いたら葬式の準備が進んでいた。

母さんは結局、2日間意識不明の後、容態が急変して死んでしまった。

楽しみにしていた旅行が、最悪の轢き逃げのせいで葬式になってしまった。

母さんの遺品を整理しながら自分を悔やんだね。

何故、もっと早く親孝行出来なかったのかと。

遺品の中にあった日記帳には、

『○○が旅行を予約しててくれたみたい。やったー!』

『旅行まで残り3日!!前日には○○も来るだろうから、いっぱいご馳走を作れるようにしとかなくちゃ!」

とギッシリ書いてあった。

それを見てたら泣けて来てさ。

日記帳の文字が滲んで読めなくなるほど、涙がボロボロと流れてきたんだ。

その後、家から出て行って犯人を捜したけど結局見つからなかった。

多分、捜査は殆ど終わっていると思う。

こんな事が起こる前に、親孝行は早くした方が良いと、この話で伝えたかった。

今は父さんに恩返ししています。

関連記事

鉛筆と参考書(フリー写真)

厳しい母

私の母はとても厳しい。 身の回りの事は全て自分でやらされていた。 勉強も部活も一番じゃないと気が済まない。 定期テストで二番を取ると、 「二番は敗者の一番だ」…

父の日

娘の声が届いた日

私はかつて、妻と一人娘の三人で暮らしていた。 だが、娘が1歳と2ヶ月になった頃、離婚することになった。 原因は、酒に溺れた私だった。 酒癖が悪く、時には暴力的にもな…

親子

「おかえり」と言ってくれる人

私は、父が大好きだ。 いつも優しくて、笑顔を絶やさない人。 私がいじめられていたときも、誰よりも真剣に話を聞いてくれて、守ってくれた。 ※ 父の職場は遠くて、…

おばあさん(フリー素材)

ばあちゃんいつまでもげんきでね

ばあちゃんの痴呆症は日に日に進行し、ついに家族の顔も分からなくなった。 お袋のことは変わらず母ちゃんと呼んだが、それすらも自分の母親と思い込んでいるらしかった。 俺と親父は…

月(フリー写真)

月に願いを

俺は今までに三度神頼みをしたことがあった。 一度目は俺が七歳で両親が離婚し、父方の祖父母に預けられていた時。 祖父母はとても厳しく、おまけに 「お前なんて生まれて来な…

猫

小さな隊長たち

子供が外に遊びに行こうと玄関を開けたとたん、突如、猫が外に飛び出して行ってしまった。 探してやっと見つけたとき、愛する猫はもうかわり果てた姿になっていた。 私はバスタオル…

赤ちゃん(フリー写真)

生まれてくれてありがとう

子供が2人居る。 でも本当は、私は3人の子持ちだ。 ※ 18歳の春に娘が生まれた。 結婚してくれると言っていた父親は、結局認知すらしてくれなかった。 若い私にとっ…

パソコン(フリー写真)

母からのメール

私が中学3年生になって間もなく、母が肺がんであるという診断を受けたことを聞きました。 当時の自分は受験や部活のことで頭が一杯で、生活は大丈夫なのだろうか、お金は大丈夫なのだろう…

市民マラソン

父からのタスキ

小さい頃、よく父に連れられて街中を走ったものだった。 生まれ育った町は田舎で、交通量も少なく、自然が多く残る静かな場所だった。晴れた日には特に、空気が澄んでいて、とても気持ちが…

コスモス

未来への手紙

家内を亡くしました。 お腹に第二子を宿した彼女が乗ったタクシーは、病院へ向かう途中、居眠り運転のトラックと激突し、彼女は即死でした。 警察からの連絡を聞いた時、酷い冗談だ…