猫のたま

公開日: ペット | 心温まる話 |

丸まるキジトラ猫(フリー写真)

病弱な母がとても猫好きで、母が寝ているベッドの足元にはいつも猫が丸まっていた。

小さな頃は、母の側で寝られる猫が羨ましくて、私も猫を押し退けては母の足元で丸まっていた。

『たま』という名前の猫で、誰にも懐かず、母にだけ懐いていた。

そんな母が、自宅療養では治らないということで入院することになった。

入院してからすぐにたまは家出してしまい、母に

「たまどうしてる?」

と聞かれると、

「ちょっと寂しそうだけど元気だよ」

と言って誤魔化していた。

暫くして母は、入院の甲斐もなく病院で息を引き取った。

母に本当のことを言った方が良かったのかな…。

そう思っていたのだが、母が亡くなって数日後の夜、そのたまがひょこりと帰って来た。

見る影もなくやつれ果てたたまは、母のベッドによろよろと辿り着いた。

しかし、いつもなら飛び上がって昇れるベッドに昇ることが出来ない。

私が抱き上げてベッドに乗せてやると、いつもの母の足元の指定席で、丸まって眠ってしまった。

「何だか疲れ果ててるみたいだねぇ?」

と、そのままにして私達も眠った。

次の日の朝、見に行ってみると、たまはその場所で冷たくなっていた。

私と父で裏庭に埋めてやったのだが、その時に父が

「きっと、かーさんが寂しくてたまを呼んだんだろうな」

と、ぽつりと言った。

そんな父も既に亡くなり、私は今でも猫を飼っている。

この猫は私が呼んだら、来てくれるのだろうか。

膝の上で大きなあくびをしている、私の『たま』や。

関連記事

犬(フリー写真)

大切な家族

家で可愛がっていた犬が亡くなって、もう何年経っただろう…。 まだ私も子育て中で、小さい子供を2人育てていたので毎日がバタバタだった時のことだ。 旦那が、番犬になるし子供たち…

夫婦の手(フリー写真)

私は幸せでした

文才が無いため酷い文になると思いますが、少し私の話に付き合ってください。 24歳の時、私は人生のどん底に居ました。 6年間も付き合って婚約までした彼には、私の高校時代の友人…

入学式とランドセル(フリー写真)

お兄ちゃんの思いやり

小学1年生の息子と、幼稚園の年中の息子、二児の母です。 下の子には障害があり、今年は就学問題を控えています。 今年に入ってすぐ、上の子が 「来年は弟くんも1年生だね~…

通帳(フリー写真)

おめでとさん

今から十年前、まだ会社に入ったばかりの頃の話。 当時の給与は手取り18万円くらいで、家に3万円を入れていた。 親に5万にしろと言われ出て行った。 一人暮らしをすれば会…

雨の日の紫陽花(フリー写真)

いってらっしゃい

もう二十年ほど前の話です。 私が小さい頃に親が離婚しました。 どちらの親も私を引き取ろうとせず、施設に預けられ育ちました。 そして三歳くらいの時に、今の親にもらわれた…

ディズニーランド(フリー写真)

ディズニーランドの星

ある日、ディズニーランドのインフォメーションに、一人の男性が暗い顔でやって来ました。 「あの…落とし物をしてしまって」 「どういったものでしょうか?」 「サイン帳です…

教室の机(フリー写真)

丸坊主だらけの教室

中学生の弟が、学校帰りに床屋で丸坊主にして来た。 失恋でもしたのかと聞いたら、小学校からの女の子の友達が今日から登校するようになったからだ、と言う。 彼女は今まで病気で入院…

野球ボール(フリー写真)

父と息子のキャッチボール

私の父は高校の時、野球部の投手として甲子園を目指したそうです。 「地区大会の決勝で9回に逆転され、あと一歩のところで甲子園に出ることができなかった」 と、小さい頃によく聞か…

ウェットフードを食べる猫(フリー写真)

猫エサ缶とコーヒー

俺はコンビニで一人夜勤をしている。 いつも夜中の3時くらいに、猫エサ缶とコーヒーを買って行くおっちゃんがいる。 おっちゃんが、 「うちの猫はこれしか食べないんだよ」 …

夫婦(フリー写真)

幸せなことは何度でもある

結婚5年目に、ようやく待ちに待った子供が産まれた。 2年経って子供に障害があることが判明し、何もかもが嫌になって子供と死のうと思った。 そしたら旦那がメールが届いた。 ※…