甲子園の約束
十年前、彼女が死んだ。
当時、俺達は高校3年生。同じ高校に通い、同じ部活だった。
野球部だった。
俺と彼女は近所に住む幼馴染で、俺は小さな頃から、野球が好きな両親に野球を吹き込まれた。
だから、俺といつも一緒に居た彼女も野球をするようになった。
※
小学校に入り、地元のチームに入って本格的に練習すると、彼女は俺よりも上手くなって行った。
チームには他に女の子が居なかったけど、彼女も俺達も気にせずに、仲間として野球をした。
彼女はピッチャーだった。
中学校でも野球を続けて、もちろん試合にも出た。
野球をしているにも関わらず、背中まで髪を伸ばして、それを毎日きっちり結んで、日焼けし過ぎないように毎日日焼け止めを塗りこんでいた。
だから俺はいつも、
「そこまでして野球がしたいのか?」
と聞いていた。
その度に彼女は、
「ここまでするほど野球が好きなんだ。私に野球を教えてくれたのは○○(俺)の親だから感謝してるよ」
そしていつも最後に、泣きそうになりながらこう言った。
「女の子が試合に出させてもらえるのは中学校までだから、今のうちに野球を楽しんでおかないと」
女の子が公式試合に出させてもらえるのは中学までだった。
俺達は高校に入ると甲子園を目指すことになるけど、彼女にとって高校に入ることは野球から離れなければならない、ということだった。
※
そして俺は彼女と付き合うことになった。
彼女は、高校に入ったら野球は辞めると言っていた。
俺達は同じくらい頭が悪くて同じ高校を受けることになった。
頭は良くないけれど、野球が弱くない高校を選んだ。
受験が近付くと、彼女はやはり野球を続けてみると言い出した。
試合に出させてもらえなくても、野球は大好きだから練習だけでもやらせてもらうんだ、と…。
※
俺達は無事、高校に合格した。
春休みは他の中学で同じ高校に受かった野球友達と、その高校まで練習に通った。
彼女は入部させてもらえるように、必死で監督に頼んでいた。
彼女は野球が上手で地元では有名だったけど、実際入部となるとやはり躊躇うものだ。
彼女は春休み、俺達と毎日高校に通い、監督に頼んでいた。
それで監督も彼女を入部させてくれた。
入学してからは、きつく、つらい練習が続いた。
それでも彼女は必死になって頑張った。
甲子園を目指し、ひたすら甲子園を目指し。
※
だけど…3年の夏、彼女は死んだ。
練習に来る時に事故に遭い、目を覚まさないまま、死んでしまった。
グラウンドで練習をしていた俺達は、それを聞いても信じられなかった。
選手もマネージャーも監督も、ただただ驚くばかりだった。
彼女は皆から好かれていたから。
俺は生まれて初めて声を上げて泣いた。
※
彼女のお葬式が済んだ後、俺は彼女のお母さんに呼ばれた。
彼女のお母さんは一通の手紙を俺に渡した。
帰ってからそれを読んでみた。
一行目には、
「○○お誕生日おめでとう」
と書いてあった。
そう言えば、一週間後は俺の誕生日だった。
彼女が俺の誕生日に渡すつもりで書いた手紙だったんだ。
だから俺はそれをすぐ読まずに、誕生日の日に読んだ。
※
○○ヘ
○○お誕生日おめでとう。また一つ歳を取ったね。
私、ホントに○○に感謝してるよ。いつもありがとね。
私は行きたくても甲子園行けないから、○○が私を連れて行ってね!
約束だよ!
私、高校で野球辞めなくて良かった。
続けて良かった。
練習はきついけど、いつか必ず報われるよね。
大袈裟だけど、人生で野球に出会えて良かった。
野球大好きだから。
でも○○に出会えたことが何より一番良かった。
大好きだよ!
○○、これからも一緒に頑張ろうね!!!
××より
※
涙が止まらなかった。
野球で忙しくて、彼氏らしいことを何もしてあげられなかった。
だけど3年の夏、甲子園に行ったさ!
彼女が笑っている気がしたよ。
俺は今でも彼女を愛してる。
※
よく読むと、俺しか泣けないな(笑)。
泣きながらだから文章めちゃくちゃでごめん。
ごめん。