彼からの手紙
幼稚園から一緒だった幼馴染の男の子が居た。
私は今でも憶えている。
彼に恋した日のことを。
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幼稚園で意味もなく友達に責められている時に唯一、私の側に居てくれて、ギュッと手を握ってくれた彼に、私は恋に落ちた。
それからは子供ながらに、
「好きだよ」
などと自分なりにアピールをしていた。
ませてたな…。
彼は顔を赤くするだけで、答えてはくれなかった。
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彼とは小学校は一緒だったが、中学校は別々になった。
小学生の時も周りに冷やかされるほど仲が良く、私は彼のことが大好きだった。
彼は私のことを少しでも意識してくれていたのかな?
※
中学校からは私も素直に好きと言うのが恥ずかしくなり、小学校からの友達などに冷やかされる度、否定をしていた。
彼との距離も離れて行った気がする。
密かな私の恋心は冷めることはなく、彼と同じ高校に行きたくて必死に勉強をした。
中学校はお互い絡むこともなく、特に思い出もないまま進んでしまった。
だから高校では…と期待を込めて、彼と同じ高校へ入学した。
高校からは中学生の時の時間を取り戻すほど一緒に過ごした。
※
高校二年生の夏。
8月に花火大会があるので勇気を出して彼を誘った。
彼の誕生日は8月28日。その二日前の日曜日に花火大会があるので、誕生日のサプライズと告白を考えていた。
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8月26日。
彼は待ち合わせ場所には来なかった。
慣れない浴衣を着て待っていたのに、来てはくれなかった。
一人トボトボと歩いて家に帰ろうとしていた時、親からの電話が鳴った。
母「あんた今どこにいるの?」
私「○○公園に居る」
母「今からお父さんと向かうから待ってなさい!」
お母さんが凄く焦っていたのを今でも憶えている。
尋常でないほど早口な口調と、そして大きな声だった。
※
数分もしない内に親が来た。
来るなりすぐ車に乗せられ、訳も解らないまま病院へと連れて来られた。
親が先生と何かお話をしている。
病院には学校の先生とお医者さんと、私の親と彼の親が居た。
私の足りない頭では理解が難しかった。
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お医者さんに連れて行かれた所は病室ではなかった。
薄暗い部屋にベッドのようなものがあり、そこには人が寝かされていて、顔には白いタオルが掛かっていた。
ここでようやく頭が追い付いた私。
そっとベットに近付き顔のタオルを取ろうとするも、彼の親から見ない方が良いと止められた。
私が彼を公園で待っている間、彼は飲酒運転の車に轢かれ、即死だったらしい。
私は事実を受け止められず、彼が「嘘だよ!」「馬鹿だな」と笑いながら頭を撫でてくれるんじゃないか。
もしかしたら慣れない悪戯をしようとしているんじゃないかって。
またいつものように私の顔を見てくれるんじゃないかって。
ずっと待っていた。
起きて笑いかけてくれるのを。
優しく頭を撫でてくれるのを…。
けどいくら時間が過ぎても彼は起き上がらない。
周りから聞こえて来る泣き声と耳鳴りが私の頭を刺激した。
もう彼は帰って来ないんだって、彼は私の側に居てくれないんだって。
どうして。どうして彼なの。
何故お酒を飲んで運転したの。
死ぬのが彼じゃないとダメなの?
他の人でいいじゃん。
どこにもぶつけられない気持ちが私の中で渦巻いていた。
好きだって叫んだ。
起きてって泣きながらお願いした。
どうしてと何度も何度も周りへ投げかけた。
意味のない私の叫びは消されて行く。
親に宥められるも、私は彼の傍を離れたくない一心だった。
側に居て、と…もう届かない声を、彼へ何度も投げかけた。
冷たい彼の手を離したくはなかった。
抜け殻のようになった私に、彼の親から彼が持っていたという手紙を貰った。
手紙はぐちゃぐちゃで血が付いていた。
読む気になれなかった。
読んでしまったら彼が死んだということを実感してしまう。
私は現実から逃げていた。
※
あれから、三年。
彼への気持ちを消せないでいる私。
今だに彼からの手紙を読めないでいる私。
忘れられないでいる私は今日、彼を解放しようと思い書きました。
彼の手紙には拙い字で、
『大好き』
と書かれていた。
血で汚れて字が滲み、中身が殆ど見えない手紙。
所々よく判らなかったが、その文字だけは綺麗に残っていた。