幸せをありがとう

公開日: ちょっと切ない話 | 夫婦 | 恋愛

指切り(フリー写真)

「いっぱいの幸せをありがとう。

私は幸せ者だ。

だって最期にあなたの顔を見られたから。

これも日頃の何とやらなのかな?」

病室のベッドで手を握りながら彼女は言う。

最期って何だよ。

お前は死なない、そうだろ?

泣きながら返す僕を見て笑いながら、

「○○、前に言ってたよね?

私が先に死んだら俺も後追うよって」

震えた声で彼女が言う。

「あぁ、すぐに行くから先行って待っててな!」

俺は本気で返した。

彼女が居ない世界なんてきっと色のない世界と同じだと思うから。

「ありがとう。

でも、絶対に来ないで。

その言葉が聞けただけで私は満足だよ。

あぁ、幸せだなぁ。

いい?

あなたは絶対に違う人を見つけて幸せになってね?

私の事は忘れて下さい。

大好きなあなたの足枷にはなりたくないの。

絶対に私の後を追わないで!!

約束しないと化けて出ちゃうよ?(笑)」

返事が出来なかった。

ここで返事をしたら、彼女がもうすぐ死ぬことを認めてしまうようで怖かった。

頭では理解しているつもりだが、本当に認めたくなかったのだ。

「ゆーびきーりげーんまん、うーそついたら…」

そう掠れた声で言いながら、彼女は天国へ旅立ちました

あれから2年。

好きな人は出来ないや。

だってお前じゃなきゃ意味ないもん。

お前とじゃなきゃ楽しくないもん。

でもな、後を追おうと思ったけど、約束守って追わなかったよ。

俺まで死んだら、お前との思い出がこの世界から消えてしまうから。

辛いよ、毎日本当に辛いよ。

いつかは俺もそちらに行きます。

その時はいっぱいいっぱい話しようね?

いっぱいいっぱい抱き締めて、

いっぱいいっぱい頭撫でて、

いっぱいいっぱいキスをしよう。

幸せをありがとう。

あと少し頑張って這いつくばってでも、生きてみます。

関連記事

どんぐり(フリー写真)

どんぐり

毎年お盆に帰省すると、近くの川で『送り火』があります。 いつもは淡い光の列がゆっくり川下に流れて行くのを眺めるだけなのだけど、その年は灯篭に『さちこ』と書いて川に浮かべました。 …

アスレチックで遊ぶ双子(フリー写真)

兄ちゃんはヒーローだった

兄ちゃんは、俺が腹が減ったと泣けば、弁当や菓子パンを食わせてくれた。 電気が点かない真っ暗な夜は、ずっと歌を唄って励ましてくれた。 寒くて凍えていれば、ありったけの毛布や服…

ベゴニア(フリー写真)

初めて好きになった人

俺が小学6年生の頃の話。 俺は当時、親の転勤で都会から田舎へと引っ越しをした。時期はちょうど夏休み。全く知らない土地で暮らすのはこれで五回目だった。 引っ越しが終わり、夏休…

差し伸べる手(フリー写真)

俺を育ててくれた兄貴

俺を育ててくれた兄貴が正月に結婚したんだ。 兄貴と言っても、血は繋がっていないけれど。 ※ 自分が5歳の時に親父が死んでから、母親が女手一つで育ててくれた。 親父と結婚…

バス停の女の子

千穂姉ちゃんが待っていたもの

俺が小学三年生の夏休みに体験した話だ。 今の今まで、すっかり忘れていた。 ※ 小学校の夏休みといえば、遊びまくった記憶しかない。 午前中は勉強しろという先生の…

女子高生(フリー写真)

一緒に生きる覚悟

妻が亡くなる前、闘病の際に「私が死んでも泣かないで」と娘二人は言われていました。 それから数日後、妻は息を引き取りました。 通夜の晩は私が会場で妻に付き添うこととし、当時…

ビーフシチュー

仲直りのビーフシチュー

昨日の朝、私は妻と言い争いをしてしまった。原因は、夜更かしによる私の寝不足で、朝の機嫌が非常に悪かったことだ。 「また仕事か」とぼやきながら起きる私。妻は私の気難しさを知ってい…

ビル

予期せぬ守り神

内定式で初めて彼女と出会った。彼女は私たちの同期だった。 彼女は聡明の代名詞のような人だった。学生時代の論文で賞を受けるほどの才女で、周囲からは期待の新星と見なされていた。 …

手を繋いで歩く夫婦(フリー写真)

たった一つの記憶

私の夫は、結婚する前に脳の病気で倒れてしまい、死の淵を彷徨いました。 私がそれを知ったのは、倒れてから5日も経ってからでした。 夫の家族が病院に駆け付け、携帯電話を見て私の…

高校野球のボール

甲子園に連れていく約束

十年前、彼女が亡くなった。 当時、俺たちは高校三年生。同じ高校に通い、同じ野球部に所属していた。 俺たちは近所に住む幼馴染だった。俺は、野球好きの両親に育てられたこともあ…