たくましいお兄ちゃん

公開日: 兄弟姉妹 | 悲しい話

兄妹(フリー写真)

親戚にとても仲の良い幼い兄妹が居た。

兄は3才の康介ちゃんで、妹は2才の愛ちゃん。

当時21歳だった俺にとっても、可愛くてたまらない子供達だった。

しかしある年末、愛ちゃんがトラックに轢かれて亡くなった。

その愛ちゃんの家族や親戚はもちろん泣いていた。

俺はあまりにも急過ぎて実感が湧かなかった。

そして愛ちゃんの兄、康介ちゃんも泣いていなかった。

まだ3才だから、きっと何が起きたか解らないのだろうと思っていた。

そして火葬の前、棺桶に眠っている愛ちゃんを見られる最後の時。

みんなが最後のお別れをしている中、一人違う所へ走って行く小さな姿があった。

俺は多分康介ちゃんだろうと思い追い掛けた。すると康介ちゃんは泣いていた。

大泣きじゃない、必死に涙を堪えようとしていた。

それでも涙が出て来ていた。俺は間違いに気付いた。

康介ちゃんは、愛ちゃんが死んだ事が解らずに泣いていなかった訳ではない。

妹の前では立派でたくましいお兄ちゃんでありたいと思い、涙を堪えていたのだと。

そう理解した俺も涙が出て来た。3才の康介ちゃんの心情を思うと、本当に悲しかった。

俺は泣いている康介ちゃんの手を引っ張り、愛ちゃんの所へ連れて行った。

康介ちゃんは愛ちゃんの顔を見るなり、ついに大泣きし始めた。

「愛ちゃん行っちゃだめだよ!」

と連呼していた。

俺を含む大人達には、その言葉があまりにも胸に突き刺さった。

小さな体の康介ちゃんと愛ちゃんだけど、二人の間には大きな絆があったのだろうと思う。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

泣ける話・感動の実話まとめ - ラクリマ | note

最新情報は ラクリマ公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

戦闘機

愛しき娘へ残す手紙

素子、素子は私の顔をよく見て、にこにこと笑ひましたよ。 私の腕の中で安心したやうに眠りもしたし、また一緒にお風呂にも入りました。 お前が大きくなって、私のことが知りとうな…

瓦礫

災害の中での希望と絶望

東日本大震災が発生した。 辺りは想像を絶する光景に変わっていた。鳥居のように積み重なった車、田んぼに浮かぶ漁船。一階部分は瓦礫で隙間なく埋め尽くされ、道路さえまともに走れない状…

空(フリー写真)

日航機墜落事故

この事故は、単独事故としては世界で一番大きな事故。 乗客は524人。生存者はたったの4人。 飛行機の横に付いている翼は宙に浮くため、上にある翼は方向を決めるためにある。 …

海

最後の敬礼 – 沖縄壕の絆

沖縄、戦時の地に息をひそめる少年がいました。 12歳の叔父さんは、自然の力を借りた壕で日々を過ごしていたのです。 住民たちや、運命に翻弄された負傷兵たちと共に。 し…

教室(フリー写真)

虐め

友達が自殺した。 理由はよくある『虐め』。 俺は気付いていた。 友達が虐められてたことには気付いていた。 でも自分までそうなるのが嫌だったから、最後は他人の振り…

兄弟(フリー写真)

最強最高の兄ちゃん

両親は俺が中学2年生の時、交通事故で死んだ。 俺には4つ上の兄と、5つ下の妹が居る。 両親の死後、俺は母方の親戚に、妹は父方に引き取られて、兄は母方の祖父母と住んでいた。 …

空(フリー写真)

見守ってくれた兄

我が家の仏壇には、他より一回り小さな位牌があった。 両親に聞いた話では、生まれる前に流産してしまった俺の兄のものだという。 両親はその子に名前(A)を付け、事ある毎に …

パラオのサンセットビーチ(フリー写真)

パラオの友情

南洋のパラオ共和国には、小さな島が幾つもある。 そんな島にも、戦争中はご多分に漏れず日本軍が進駐していた。 その島に進駐していた海軍の陸戦隊は、学徒出身の隊長の元、住民たち…

コスモスの花(フリー写真)

余命半年の彼女

今日、彼女と別れた。 原因は彼女の病気、癌だった。 最初に聞いた時、冗談だと思った。 つい昨日まで普通に遊んで、喋って、ご飯を食べて、笑っていたのに。 俺は、 …

夕日(フリー写真)

戦時中のパラオにて

遠い南の島に、日本の歌を歌う老人が居た。 「あそこでみんな、死んで行ったんだ…」 沖に浮かぶ島を指差しながら、老人は呟いた。 ※ 太平洋戦争の時、その島には日本軍が進駐…