美味かったな

公開日: 友情 | 心温まる話

食堂

二十年前のことです。当時、私たち家族は母一人による育てられ、非常に厳しい経済状況にありました。母は私たち三人の子供を育てるため、夜も眠らずに働いていましたが、それでも生活は極貧でした。

中学を卒業するとすぐに働き始め、息つく暇もなく働いたのです。友達と遊ぶ時間など考えられませんでした。

働き始めてから一年が経ち、久しぶりに同級生に会う機会がありました。その流れで食事に行くことになり、私たちは近くの食堂に入りました。メニューを見ても、漢字が読めず、唯一認識できたのはカタカナで書かれた「オムライス」という文字だけでした。

同級生はさっと注文を済ませ、「焼きそばとごはん」と言いました。私は不安を抱えつつも、「オムライスとごはん」と言いましたが、その瞬間、店員は面食らい、周りからは小さな笑い声が漏れました。しかし、その瞬間、同級生がすかさず「さっきのキャンセルね!俺もオムライスとごはん!」とフォローしてくれました。

食事が終わり、店を出るとき、同級生は「美味かったな」と笑顔で話し、「仕事頑張れよ」と励ましてくれました。その一言に、涙があふれそうになりました。そのとき初めて心の底から「ありがとう」と感じた瞬間でした。

その友人は、今でも私の親友です。彼の優しさがその後の人生に大きな影響を与え、今でもその日のことを忘れることはありません。

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