天国の恩人
私はキャバクラ嬢でした。
家がとても貧乏で、夜に働きながら大学へ行きました。
そんな私の初めてのお客様。
Yさん、70歳のお爺ちゃんです。
彼はとても口下手で、殆ど話しません。
何か話しかけても、
「うん。そうだね」
という返事が返ってくるだけです。
でも毎週来てくれました。
時には同伴もしてくれました。
私は必死で話しかけましたが、いつも優しく笑うばかり。
とても不思議な人でした。
夜の仕事をしていると、
「休みの日に会いたい」「ホテルに行きたい」
など、そんなことを言う人が殆どですが、彼は一切そんなことは言いませんでした。
私がピンチな時は、決まって助けてくれました。
いつも静かにウィスキーを飲み、午前0時には帰って行きます。
※
大学の卒業が決まり、夜の仕事を卒業する日。
いつもと変わらず来店してくれて、お疲れ様の言葉をくれました。
翌日に珍しく彼の方からメールが来ました。
『今までお疲れ様。
本当によく頑張ったね。
君と過ごした時間は本当に楽しかった。
これからは昼の人間。
今まで夜の仕事で出会った人とは、もう関わってはいけないよ。
夜の世界に戻って来てはいけないよ。
もちろん僕とも…。
いつでも君のことを応援しています。
もう会うことはないけれど、どうか夢が叶いますように。
頑張れ︎』
※
私は彼の言う通り、夜の仕事で出会った人との連絡は断ちました。
でも、彼の連絡先だけは消せませんでした。
毎年一度だけ、彼の誕生日にメールをしました。
『誕生日おめでとう。
体調崩してませんか?
この間、初めての契約が取れました』
『誕生日おめでとう。
お元気ですか?
私は後輩ができました。
仕事頑張ってます』
『誕生日おめでとう。
毎年約束を破ってすみません。
仕事が上手くいかなくて、正直辞めたいです。
もう頑張れないよ…』
※
3年目のメールで初めて返信が来ました。
『突然のメール申し訳ございません。
Yの娘です。
先日、父はガンで他界しました。
貴女に伝えたいことがあって、メールさせていただきました。
父の日記です。
父の想いが伝わったら幸いです。
お仕事頑張ってください』
※
ここからが彼の日記です。
『今日も彼女は楽しそうに大学の話をしてくれた。
夢を語る彼女はキラキラしてる。
応援していますよ』
『今日はお寿司を食べに行った。
本当に美味しそうに食べてくれて嬉しかった。
昼は学校、夜は仕事。
ちゃんと寝てるのか心配だ』
『進級おめでとう。
あと一年で卒業ですね。
応援してます。
最近遊びほうけてるみたいだけど、ちゃんと勉強もするんだよ』
『就職が決まったようだ。
おめでとう。
夢への第一歩ですね』
『やっと卒業した。
夢に向かって頑張ってほしい。
頑張り屋さんだからきっと大丈夫。
頑張れ︎』
『誕生日のお祝いメールが来た。
覚えててくれて嬉しい。
仕事頑張ってるみたいで良かった。
でも、返信してはいけないな。
彼女は自分の力で未来を掴んだのだから…』
『今年もメールが来た。
先輩かー。
彼女のことだから張り切って世話を焼いてるんだろうな。
仕事楽しそうで何より』
『仕事が大変みたいだ。
頑張れ︎。
辞めてはいけないよ。
彼女は強いからきっと大丈夫。
応援していますよ。
君なら大丈夫だ』
※
今年で社会人6年目になります。
今、仕事が楽しいです。
毎日頑張っています。
天国のYさんへ届きますように…。