兄として、父として

公開日: 兄弟姉妹 | 心温まる話

花嫁(フリー写真)

最近、私は友人の娘の結婚式に参加しました。

その友人とは高校時代からの長い付き合いで、その娘のこともよく知っています。

彼女の結婚式の案内を受けて、私は喜んで出席することにしました。

しかし、その娘という存在は実は友人の妹でした。

彼女が妹でなく娘として育てられた理由は、友人が21歳の時に両親が事故で他界したからです。

家族は兄と妹の二人だけになり、友人は一人の親として、妹のために育てることが最善だと考えたのです。

当時、友人からその事情を聞かされたとき、私は強く反対しました。

確かに妹のことを思うと、その選択が最善かもしれません。

しかし、友人自身はどうなるのでしょうか?

21歳で一人の子を育てるというのは、あまりにも無理があると感じました。

母親の存在を尋ねられたら、どう答えるのでしょう?

また、戸籍を見られた時、事実がばれてしまうことは避けられないのではないでしょうか?

それに、友人自身の結婚や将来についてはどうなるのでしょう?

これらの疑問を友人にぶつけたとき、彼は自身の両親が他界し、つらい時期に妹の笑顔が唯一の救いだったと答えました。

そして、この子が無事に育ってくれるのなら、自分の幸せは二の次でもいいと言いました。

それを聞いた私は、何も言い返すことができませんでした。

ただ、「辛い道だと思うけど、頑張れ」と伝えることしかできませんでした。

それから、友人は家事、仕事、妹の育児と、全力で生活をしていました。

私も何か手伝えることがないかとたびたび尋ねましたが、話を聞いてあげることしかできませんでした。

私の知る限り、妹が友人が父親ではなく兄だという事実を知っているような様子はありませんでした。

そして、その妹の結婚式の日がやってきました。

新郎の会社の人々が集まり、友人が感動的なスピーチをし、式は順調に進行しました。

そして、新婦が父への手紙を読み始めました。

その中には、「お父さん、今まで本当にありがとう」という言葉がありました。

彼女は感極まって涙を流しながら読んでいました。

しかし、突然彼女が読み進めなくなり、首を横に振り始めました。

周囲は何が起こったのか理解できず、ざわつき始めました。

次の瞬間、彼女が「お兄ちゃん」と言いました。

その言葉を聞いて、私の心臓が飛び出るかと思いました。

彼女は、自分が娘ではなく妹だという事実を知っていたのです。

高校生の時に友人の日記を見つけ、その時に真実を知ったようでした。

彼女は涙を流しながら友人に感謝の言葉を述べ、そして謝罪しました。

彼女が言うには、自分の存在が兄の人生を狂わせてしまったからです。

友人は彼女に対し、

「それは違う。お前がこんなに大きく育ってくれた。それだけで俺には十分だ」

と答えました。

その言葉を聞きながら、私も涙が止まりませんでした。

拍手が湧き起こり、結婚式は平然と進行し、無事に終わりました。

その後、私は友人と一緒に居酒屋に行き、酒を飲みながら話をしました。

話をしながら友人は妹のことを思い出し、涙を流していました。

その時、私は友人に向かって「お疲れ様」と言いました。

友人は笑顔で「いえいえ」と答え、泣きながら話しました。

そして、友人が今一番楽しみにしているのは、孫が生まれることだと話しました。

関連記事

花束

深く、不器用な愛情

私は先天性の障害を持つ足で生まれました。 幼い私が、治療で下半身がギプスに覆われた時のことです。 痛みで泣き叫んだ夜、疲れ果てて眠った私を見て、強がりの父が涙を流していま…

靴を持つ夫婦(フリー写真)

二つの指輪

「もう死にたい…。もうやだよ…。つらいよ…」 妻は産婦人科の待合室で、人目もはばからず泣いていた。 前回の流産の時、私の妹が妻に言った言葉…。 「中絶経験があったりす…

駅のホーム(フリー写真)

母を守る子

昔は JR大久保駅(兵庫県)から通勤していたのですが、週2日は午前10時までに舞子に着けば良い時期がありました。 朝はゆっくりできるし、電車は空いていて快適でした。 ホー…

手繋ぎ

重なる運命のメッセージ

彼と彼女は、いつものツタヤの駐車場で待ち合わせをしました。お互いに重要な話があり、緊張しながら集まった二人は、メールで心の内を伝え合うことにしました。 彼は重い告白をしました。…

花

災害の中での大きな力

宮城県民の私は、朝からスーパーに並んでいました。 私の前にいたのは、母親と泣きべそをかいている子供。 その子供は、壊れたニンテンドーDSを大事に持っていました。画面には亀…

クリスマス(フリー写真)

サンタさんへの手紙

6歳の娘がクリスマスの数日前から、欲しいものを手紙に書いて窓際に置いていた。 何が欲しいのかなあと、夫とキティちゃんの便箋を破らないようにして手紙を覗いてみたら、こう書いてあった…

駅のホーム(フリー写真)

花束を持ったおじいちゃん

7時16分。 私は毎日、その電車に乗って通学する。 今から話すのは、私が高校生の時に出会った、あるおじいちゃんとのお話です。 ※ その日は7時16分の電車に乗るまでまだ…

花(フリー写真)

母心

ちょっとした事で母とケンカした。 3月に高校を卒業し、4月から晴れて専門学生となる私は、一人暮らしになる不安からか、ここ最近ずっとピリピリしていた。 「そんなんで本当に一人…

結婚式場(フリー写真)

叔父さんの血

俺には腹違いの兄貴が居る。 俺が小学5年生、兄貴が大学生の時に、両親が子連れ同士の再婚。 一周りも年が離れていたせいか、何だか打ち解けられないままだった。 ※ 大学入試…

サイコロ(フリー写真)

あがり

俺は小さい頃、家の事情でばあちゃんに預けられていた。 当初は見知らぬ土地に来てまだ間も無いため、当然友達も居ない。 いつしか俺はノートに、自分が考えたすごろくを書くのに夢中…