彼女からの涙の告白

公開日: 心温まる話 | 恋愛

カップル(フリー写真)

彼女との同棲生活が始まって、すでに5年以上が過ぎていました。

そして今、私は彼女にプロポーズをしようとしています。

だけれども、緊張からうまく言葉が出てこないのです。

彼女は私の顔を見て、「どうしたの? 顔色悪いよ?」と心配そうに訴えました。

「あ、あのさ⋯?」

「⋯ん?」

彼女の正面に座り直し、私は深い思いを込めて告げました。

「俺と結婚してくれ」

彼女の瞳が丸くなり、ただひたすら私の顔を見つめていました。

その返事はすぐには来ませんでした。

その瞬間、私の心臓の音が鼓膜を突き破るように大きく響いていました。

そして彼女は突然涙を流し、静かに返事をしました。

「⋯ごめんなさい」

彼女からの拒否を予想していなかった私は、視界が真っ暗になりました。

他の男性が彼女の心の中にいるのか?

それとも彼女は私との別れを考えていたのか?

私たちはこれで終わりなのか?

プロポーズなんてしなければ良かったのか?

様々な思考が頭を巡り、私は黙り込んでいました。

その間、彼女が再び声を出しました。

「私⋯、赤ちゃん産めないの⋯」

予想外の言葉に、私は驚きました。

彼女は涙を流しながら続けて話しました。

病気のせいで子供を産むことができなくなったという事実。

その事実に苦しみ、毎日涙を流して過ごした日々。

そんな状況の中で私と出会ったこと。

しかし、彼女は私に真実を告げることができず、それを隠し続けることが辛かった。

この瞬間、私に全てを告げる日が来ることが怖かった。

彼女は私の顔を悲しげに見つめていました。

私の表情は、その時、どう映っていたのだろう。

「こんな私でも結婚したい?」

彼女の問いに対し、私は何度も何度も頷きました。

関連記事

ケーキカット(フリー写真)

思い出のスプーン

私は不妊治療の末にようやく産まれた子供だったそうです。 幼い頃から本当に可愛がられて育ちました。 もちろんただ甘やかすだけではなく、叱られることもありました。 でも常…

たんぽぽを持つ手(フリー写真)

あした

私の甥っ子は、母親である妹が病気で入院した時に、暫くパパママと離れて実家の父母の家に預けられていました。 「ままがびょうきだから、おとまりさせてね」 と言いながら、小さな体…

サーカス(フリー写真)

ほどこしと親切

私がまだ十代の頃の話です。 サーカスの入場券を買うために、父と私は長い列に並んで順番を待っていました。 私たちの前に居るのは、ようやくあと一家族だけとなりました。 私…

空(フリー写真)

見守ってくれた兄

我が家の仏壇には、他より一回り小さな位牌があった。 両親に聞いた話では、生まれる前に流産してしまった俺の兄のものだという。 両親はその子に名前(A)を付け、事ある毎に …

繁華街

夢への橋渡し

私はかつて、家の貧しい状況から夜の仕事をしながら大学に通うキャバクラ嬢でした。 私の初めてのお客様は、Yさんという70歳のお爺ちゃん。彼は口下手で、私の話に対して「うん。そうだ…

ご縁の糸(フリー写真)

風変わりなアピール

30歳になる少し前に離婚した。 その一年半後に現在の妻を紹介された。 高校を出て7年間、妻は俺の祖母の兄が営む田舎町の店舗に勤めていた。 安い給料なのに真面目に働く良…

飛行機の座席(フリー写真)

ファーストクラス

「ちょっとスチュワーデスさん!席を変えてちょうだい」 ヨハネスブルグ発の混んだ飛行機の中で、白人中年女性の乗客が叫んだ。 「何かありましたか?」 「あなた、解らないの…

バイキングのお皿(フリー写真)

埃まみれのパンチパーマ

阪神大震災後の話。 当時、俺はあるファミレスの店員をしていて、震災後はボランティアでバイキングのみのメニューを無料で提供する事になった。 開店と同時に満席になって待ち列が出…

お手玉(フリー写真)

私のこと忘れないでね

遠い昔、私が小学4年生の頃の話です。 当時の僕は人見知りで臆病で、積極的に話しかけたりするのが出来ない性格でした。 休み時間、みんなは外に出て遊んでいても、僕は教室の椅子…

満員電車(フリー写真)

子供を大切に

父が高校生の時に、僕の祖父が死んだ。 事故だった。 あまりの唐突な出来事で我が家は途方に暮れたらしい。 そして父は高校を卒業し、地元で有名な畜産会社に入社した。 …