私のこと忘れないでね

お手玉(フリー写真)

遠い昔、私が小学4年生の頃の話です。

当時の僕は人見知りで臆病で、積極的に話しかけたりするのが出来ない性格でした。

休み時間、みんなは外に出て遊んでいても、僕は教室の椅子にずっと座っていました。

しかし、一人でいるのが好きな訳ではないので、凄く寂しい思いをしていました。

ある日、休み時間いつも通り席に座ってると、隣の席の女子に

「何で男子のみんなと遊びに行かないの」

と言われました。

その時は、つい強がって

「外で遊びたい気分じゃないから」と言いました。

暫くしてその子に、

「じゃあ、私と中で遊ぼう」と言われ、けん玉をしたりお手玉をしたり、

だんだん楽しくなってしまいキャッチボールをしていたら、担任の先生に

「それ外遊びだから、教室でやらないで」と怒られました。

下校の時間、その人を見かけたので、

「休み時間の時、楽しかったね」と言うと、

「先生には怒られたけどね」と言いました。

翌日も、その翌日も、その子と遊んでいたら、だんだんと遊ぶ人数が増えて行き、それから僕はクラスの男子とも外に出て遊ぶようになりました。

それから何週間か過ぎたある休み時間、外に出ようとしたら、その子に「待って」と言われました。

しかし、その子は何も言わなかったので「休み時間終わったらで良い?」と遊びに行きました。

その日のホームルームの時間、担任の先生から、その子が転校することを伝えられました。

その時の僕は、親友だと思っていたその子に大事なことを伝えてもらえなかった事に腹を立てていて、その人の気持ちを考えることが出来ませんでした。

掃除の時間になり、その子の机を運んでいたら、引き出しからお手玉が落ちました。

その瞬間、僕はあの日、その子と遊んだことが今までで一番楽しかった事を思い出しました。

あの日の夜、人生で初めて友達が出来たことが嬉しくて嬉しくて、嬉しさのあまり泣いてしまったのを思い出しました。

僕は考えました。

その人と会わなかったら、僕は誰とも話すことができなくて寂しく人生を送っていた。

その人は僕の人生を変えてくれた運命の人だと思いました。

帰りの会が終わり、僕はその人に

「本当にありがとう、友達になってくれて」

と言いました。

そしたらその人にこう言われました。

「君のおかげで私も楽しかった。私のこと忘れないでね」

あれから60年、私は今年で70歳になりますが、あの人の事は今も忘れていません。

関連記事

親子の手(フリー写真)

親父の思い出

ある日、おふくろから一本の電話があった。 「お父さんが…死んでたって…」 死んだじゃなくて、死んでた? 親父とおふくろは俺が小さい頃に離婚していて、まともに会話すらし…

ラグビー場(フリー写真)

ラグビーと恩師

私は高校時代に万引きをして、人生観が変わりました。 中学から好きだった野球を続ける為に、有名な強豪校に希望して入りました。 しかしボールを触らせて貰えず、毎日ボール拾いばか…

サイコロ(フリー写真)

あがり

俺は小さい頃、家の事情でばあちゃんに預けられていた。 当初は見知らぬ土地に来てまだ間も無いため、当然友達も居ない。 いつしか俺はノートに、自分が考えたすごろくを書くのに夢中…

マグカップ(フリー写真)

友情の形

友人が亡くなった。 入院の話は聞いていたが、会えばいつも元気一杯だったので、見舞いは控えていた。 棺に眠る友人を見ても、闘病で小さくなった亡骸に実感が湧かなかった。 …

オフィスの机(フリー写真)

膝枕

昔、飲み会があるといつも膝枕をしてくれる子が居たんだ。 こちらから頼む訳でもなく、何となくしてもらう感じだった。 向こうも嫌がるでもなく、俺を膝枕しながら他の奴らと飲んでい…

夕日(フリー写真)

祖父母からのお小遣い

自分には77歳のばあちゃんがいる。 数ヶ月前にじいちゃんが亡くなり、最近はあまり元気が無い。 ばあちゃんの家には車で20分程で行ける距離だから、父と定期的に行くようにしてい…

婚約指輪(フリー写真)

玩具の指輪

高校生の頃の話。 小さな頃から幼馴染の女がいるのだが、その子とは本当に仲が良かった。 小学生の頃、親父が左手の薬指に着けていた指輪が気になって、 「何でずっと着けてる…

猫

小さな隊長たち

子供が外に遊びに行こうと玄関を開けたとたん、突如、猫が外に飛び出して行ってしまった。 探してやっと見つけたとき、愛する猫はもうかわり果てた姿になっていた。 私はバスタオル…

手繋ぎ

重なる運命のメッセージ

彼と彼女は、いつものツタヤの駐車場で待ち合わせをしました。お互いに重要な話があり、緊張しながら集まった二人は、メールで心の内を伝え合うことにしました。 彼は重い告白をしました。…

夕日(フリー写真)

生きることの大切さ

ガンダム芸人の若井おさむさん。 彼は幼い頃から日常的に、兄と母親から相当な虐待を受けていました。 それは彼が20代前半の頃までずっと続きました。 それに耐えかねた若…