おとうさんという言葉

公開日: ちょっと切ない話 | 子供 | 家族

電車内から見る駅のホーム(フリー写真)

その日は約束の時間ぎりぎりに、舞浜駅のホームから階段を降りた。

雑踏の中には元妻と、ミニリュックを背負った小学3年生の息子が待っていた。

半年ほど見ない間に一回り大きくなっている息子をじっと見ていると、元妻が

「じゃあ、お願いね」

とパスポート(引換券)とメモ紙を渡してくれた。

元妻に見送られ改札を出る俺と息子。

メモには息子の好きなアトラクションションや好みの店、食べ物が記してある。

ランドまでの道程は、二人とも無言だった。

色々と話したいこともあった。普通の父親が子にするように頭を撫でたりも…。

でも、切っ掛けが掴めないまま入場した。

色々なアトラクションを楽しむうちに、少しずつ会話が増えて来た。

しかし、まだお互いに気を遣っているような感じもあった。

ミートでキャストから「おとうさん」と言われ、何だか不思議な気分。

長いようで短い、8時間ほどの親子ゲーム。

夕闇迫る駅のホームで、息子を元妻に引き渡した。

彼女の希望で、俺は一本後の電車に乗るため、二人を見送ることになる。

電車のドアが閉まる寸前、息子が周囲も気にせず大声で叫んだ。

「おとうさん、今度はシーだよ!絶対、一緒に行こうね!」

その日聞いた、初めての「おとうさん」という言葉。

電車の中で一人、スプラッシュで撮られた、二人同じように口を開けている写真を見ていると、何だか泣けてきてしまった。

関連記事

ちまきと柏餅(フリー写真)

ロクな大人

この前の、子供の日。 夫の親、兄弟、親戚、一同が集まった席で、いつものように始まった大合唱。 「一人っ子は可哀想」 「ロクな大人にならん」 「今からでも第二子は…

乾杯(フリー写真)

変わらないもの

今まですれ違いが多くて、なかなか時間を取って話す機会のなかった父。 そんな父と時間を取って話す機会を得たのは、恥ずかしながら仕事でミスを連発して会社から叱責を何度も受けていた時…

カップル(フリー写真)

書けなかった婚姻届

彼女とはバイト先で知り合った。 彼女の方が年上で、入った時から気にはなっていた。 「付き合ってる人は居ないの?」 「居ないよ…彼氏は欲しいんだけど」 「じゃあ俺…

結婚指輪(フリー写真)

ずっと笑っていてね

去年の夏、彼女が逝きました。 ある日、体調が優れないので病院へ。 検査の結果、癌。 余命半年と診断されました。 最期まで「もっと生きたい」「死にたくない」とは言…

デジカメを持つ女性(フリー写真)

母がデジカメを買った

機械音痴の母がデジカメを買った。 とても嬉しいらしく、はしゃぎながら色々なものを撮っていた。 ※ 何日か経った頃、メモリが一杯で写せなくなったらしく 「どうすればいいの…

浜辺で子供を抱き上げる父親(フリー写真)

不器用な親父

俺の親父は仕事一筋で、俺が小さな頃に一緒にどこかへ行ったなんて思い出は全く無い。 何て言うのかな…俺にあまり関わりたがらないような人って感じ。 俺は次男だったんだけど、兄貴…

田舎の風景(フリー写真)

せめて届かないだろうか

葬式、行けなくてゴメン。 マジでゴメン。 行かなかったことに言い訳できないけどさ、せめてものお詫びに、お前んちの裏の山に登って来たんだ。 工事用の岩の間に作った基地さ…

病院(フリー素材)

大好きなおじいちゃん

私は昔、いらんことばっかりしてたね。 私は兵庫県で、おじいちゃんは鹿児島に住んどった。 盆休みやお正月の長い連休は、よく遊びに行ってたね。 毎回遊びに帰る度にいっつ…

親子(フリー写真)

生んでくれてありがとう

母が死んで今日で一年が経つ。 高齢出産だったこともあり、俺の同年代の友達の親と比べると明らかに歳を取っていた。 「何でもっと若い頃に生んでくれなかったの!?」 と責め…

工事現場(フリー写真)

父の生き様

公用でとある高校へ出掛けたある日のことだった。 私達は校長先生に呼び止められ、 「時間がありましたら、お見せしたいものがありますので、校長室までお越しください」 と言…