お兄ちゃん

公開日: 兄弟姉妹 | 子供 | 家族 | 心温まる話 | 長編

結婚式(フリー写真)

この間、友人の娘の結婚式に出席した。

私と友人は高校からの友達で、かれこれ30年以上の付き合いで、その娘の事も知っている。

その子の結婚式という事で電話が来て出席する事にした。

しかしその子、本当は友人の娘ではなく、友人が20歳の時に生まれた妹だ。

なぜ妹を娘としていたのかと言うと、友人が21歳の時に両親が事故で他界。

家族は兄妹二人となり、親の居ない家族として育てるよりも、片親ではあるが父親の居る家族として育てた方が妹のためにもなるのではと、彼なりに判断したからである。

当時その事で友人から相談された時、私は凄く反対した。

確かに妹の事を考えればそれが良いのかもしれないが、お前自身はどうなるのか?

21歳やそこらで子供一人、しかも片親として育てる事は、幾ら何でも無理があり過ぎる。

母親の事を尋ねられたらどう答えるのか?

そもそも戸籍を見られた際に気が付く。

祖父の元で育ててもらった方が良いのではないか?

それに友人自身の将来の結婚などの事もどうするのか?

それらの事を友人に尋ねると、友人は父親母親方の祖父は既に病気で他界、親戚に預けるのも嫌。

それ以前に自身、両親が他界し辛い時に妹の笑顔に救われた。

この子が無事育ってくれるのならば、自分の幸せは二の次でも構わない。

そう言われたら私自身何も言い返せず、ただ

「辛い道なのかもしれないが、頑張れ」

としか言えなかった。

それから友人は家事と仕事、妹の育児とで一生懸命だった。

私も「何か手伝える事はないか?」と時折聞いてはみたものの、酒に付き合い話を聞くぐらいしか出来る事は何もなかった。

私の知る限り、その子が友人が父親ではなく兄という事を知っている様子はなく、また友人からそのような話を聞いた事もなかったので、上手く行っているのであろうと思っていた。

その子の結婚式も順調に新郎の会社の方、友人のスピーチなど全てが順調に進んでいた。

そして新婦が手紙を読み始めた。

よくある内容の父への手紙である。

「お父さん、今まで本当にありがとう」

そう言って娘さんは泣いていた。

泣きじゃくっていた。

しかしそこで事態は変わった。

娘が一向に続きを読まないのである。

そして首を横に振りながら何か訴えている。

何が起こったのか解らず、周りはざわつき始めた。

次の瞬間、彼女の口から

「お兄ちゃん」

という言葉が出てきた。

私は口から心臓が飛び出るかと思った。

きっと友人もそうに違いない。何せ顔色が一瞬にして変わっていた。

彼女は全て知っていたようである。

何でも高校生の時、書斎を整理している際に偶然友人の日記を見つけ読んだらしく、その時に自分が娘ではなく妹である事を知ったようである。

彼女は言葉にならないほど、泣きながら友人に感謝の言葉を言っていた。

そしてそれと同時に謝罪もしていた。

自分のせいで兄の人生を狂わせてしまった。

本当にごめんなさいと何度も謝っていた。

友人は、

「それは違う。俺の人生はつまらないものじゃない。

お前がこんなに大きく育ってくれた。

それだけで俺には十分だ」

そう言っていた。

俺も自分の事ではないのにも関わらず涙が流れていた。

そうして周りから拍手が送られ、何事もなかったかのように式は進んで行き、結婚式は終わった。

私は友人とその後、居酒屋へ行き酒を飲みながら話をした。

話をしながら友人は妹の事を思い出し、涙を流していた。

私はその時、友人に「お疲れ様」と言ってやった。

友人は笑いながら「いえいえ」と言い泣いてた。

友人が今一番楽しみにしているのは、孫が生まれる事らしい。

関連記事

秘密

豊かさの秘密

アメリカのとある大富豪が、十人のエージェントにある事を世界中で調査するように命じました。 それは「貧乏人が必ず金持ちになる方法はあるか」「金持ちが金持ちで居続けることができる方…

食堂

美味かったな

二十年前のことです。当時、私たち家族は母一人による育てられ、非常に厳しい経済状況にありました。母は私たち三人の子供を育てるため、夜も眠らずに働いていましたが、それでも生活は極貧でした…

父の日のプレゼント(フリー写真)

見知らぬおじさん

私には妻が居たが、一人娘が1歳と2ヶ月の時、離婚することになった。 酒癖の悪かった私は暴力を振るうこともあり、幼い娘に危害が及ぼすことを恐れた妻が、子供を守るために選んだ道だった…

星空(フリー写真)

一生懸命に生きて

私は昨日、小学4年生の子から手紙で相談を受けました。 『僕のお母さんに元気になって欲しくて、プレゼントをあげたいんだけど、僕のお小遣いは329円しかありません。この値段で買えて、…

妊婦さんのお腹(フリー写真)

皆からもらった命

母は元々体が弱く、月に一回定期検診を受けていた。 そこで、私が出来たことも発覚したらしい。 母の体が弱いせいか、私は本来赤ちゃんが居なくてはいけない所に居らず、危ない状態だ…

レジ(フリーイラスト素材)

一生懸命に取り組むこと

その女性は、何をしても続かない人でした。 田舎から東京の大学に進学し、サークルに入ってもすぐに嫌になって、次々とサークルを変えて行くような人でした。 それは、就職してからも…

子犬(フリー写真)

子犬を買いに来た男の子

あるペットショップの店頭に『子犬セール中!』の札が掛けられました。 子犬と聞くと子供はとても心をそそられるものです。 暫くするとやはり、男の子が店に入って来ました。 …

朝の空

天使になった少女

私が看護学生だった頃の話です。 ある休日、友達と遊びに行った帰り道で、突然、目の前で交通事故が起こりました。 ひとりの小さな女の子が車に撥ねられ、道路に倒れていたのです。…

天国(フリー写真)

思いやり

地獄にある食堂のテーブルの上には、沢山の美味しそうなお料理が乗っています。 食事の時間になると、地獄に居る人間達が食堂に続々と入って来ます。 彼らはいつも愚痴ばかりで不平…

カーネーション(フリー写真)

本当のお母さん

俺が6歳の頃、親父が再婚して義母がやって来た。 ある日、親父が 「今日からこの人がお前のお母さんだ」 と言って連れて来たのだ。 新しい母親は、俺を本当の子供のよ…